天才モーツァルトにも、
奇跡のビートルズにも、
最も輝く一瞬があった。
ダ・ヴィンチや、
ミケランジェロにも、
ヴァン・ゴッホにも、
ひときわ凄い旬の時期があった。
2015年1月時点の
ホールフーズ・マーケットが、
まさしくそれだ。
月刊商人舎2015年1月号。
そのCoverMessageで、
私はこう書いた。
最も輝く一瞬。
しかしその後、輝きは、
薄れていくのみ。
もちろん天才や奇跡の人は、
最も輝く一瞬が過ぎても、
輝き続ける。
ホールフーズのこの2年半は、
そんな一瞬の後の、
まどろみのような時間だった。
現地時間の昨日6月16日。
アマゾン・コムは、
ホールフーズを、
総額137億ドルで、
買収すると発表した。
1ドル100円換算で、1兆3700億円。
現時点の為替レートならば1兆5000億円。
ホールフーズの株式を、
1株42ドルのキャッシュで買い取る。
今年の後半には、この買収も終了する。
ただし今後、ホールフーズ株主の了解、
および関係官庁の承認が必要となる。
このニュースは、
世界中を駆け巡った。
ホールフーズの9%ほどの株式は現在、
投資会社ジェイナ・パートナーズが保有。
そして投資会社は、
短期で企業価値を高めることを要求する。
つまり速やかな業績改善を求める。
ホールフーズにとっての最大の問題は、
この点にある。
もともと同社は1980年に創業し、
1992年にナスダックに上場した。
その資金を活かして急成長を遂げた。
しかし、株式公開は、
会社を嫁に出すようなものだ。
だから株式を買い集められたり、
買収をかけられたり、
といった事件は起こってくる。
そして最高の一瞬のあと、
投資会社の短期的視野とその要望が、
ホールフーズの経営を崩していった。
私は「365by Whole Foods Market™」を、
まったく評価していない。
株主の短期的視野から、
利益を求めることを目的に、
開発されたフォーマットだからである。
ホールフーズのポジショニングに、
全然、貢献していない。
さらにこの2年ほど、
店舗でも本部でも、
レイオフが続く。
昨年11月には、過去6年間、
共同CEOだったウォルター・ロブが退任した。
ホールフーズは悪循環に陥り、
投資家から売却を提案された。
その売却候補として名が挙がったのが、
アマゾンとクローガーだった。
結果、アマゾンに軍配が上がった。
しかし今後の経営はそのまま、
現CEOのジョン・マッケイが担う。
本社もテキサス州オースチンのまま。
アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは語る。
「アマゾンのグループの中で、
これまで同様の仕事を続けてもらう」
この買収発表のあと、
株価は上昇し、アマゾンはもう、
元を取ったといわれる。
しかし一番大切なのは、
コンシャス・カンパニーの、
アソシエーツたちの、
コンシャスである。
それがどう維持、向上されるか。
ホールフーズの今後は、
この一点にかかっている。
短期的利益の向上と、
働く人たちのコンシャスとは、
正比例はしない。
一方、アマゾンにとっては、
いいことづくめだ。
特にオーガニックやナチュラルに関して、
そのサプライチェーンマネジメントは、
ホールフーズの企業価値の一つだ。
アマゾンはそれを手に入れて、
Eコマースとリアル店舗で、
最高最大の存在となるに違いない。
ホールフーズは、
2016年9月期売上高157億2400万ドル、
期末店舗数457店。
どの店もホスピタリティにあふれ、
素晴らしさを失ってはいない。
アマゾンが、
短期的収益を求めない限り、
ホールフーズは、
一瞬の輝きのあとの、
まどろみの時間のただ中に、
あり続けるだろう。
さて、昨日の夜、大阪に入って、
万代知識商人大学第二期。
その4回目の講義テーマは、
オペレーションマネジメント、
サプライチェーンマネジメント。
会場は、大阪府茨木市彩都あかね、
万代彩都センター。
要冷の物流センターと、
畜産プロセスセンターが併設されている。
このセンターを見学しながら、
会議室で講義する。
敷地面積9万5624㎡(2万8940坪)、
建築面積3万2572㎡(1万0160坪)、
延べ床面積4万5663㎡(1万3820坪)。
昨年7月27日に稼働開始した。
要冷センターとしては、
国内最大規模の施設だ。
講義進行はいつものように、
東尾里江さん。
万代人事部マネジャー。
初めに前回講義の課題レポートの発表。
前回はマーケティングマネジメント講義。
代表して報告してくれたのは、
桃谷駅前店店長の佐野浩二さん。
競争環境の中で、
自店の弱みと強みを分析し、
取り組み課題を発表してくれた。
最初に解説したのは、
Supply Chain Managementの定義。
全体最適と後工程はお客様の考え方。
それから製造業プロダクトマネジメント、
小売業オペレーションマネジメント。
そしてトヨタ生産方式の要諦。
学習院マネジメントスクールでは、
D(ディマンド)SCMを教えているが、
小売業にとって大事なことは、
店頭である後行程が、
前工程を規定すること。
視察前のセンター解説は、
彩都TPLセンター長の富増胤守さん。
(株)日本アクセス西日本営業部門大阪支店。
センターは大きく3つに分かれる。
要冷エリア、生鮮エリア、クレートエリア。
要冷エリアの温度帯は0~4℃。
暖房着を着て、キャップをかぶり
視察開始。
要冷エリアでは、冷凍・冷蔵商品を扱う。
和洋日配、農産、鮮魚、塩干、
チョコレート、惣菜、ミートデリなど。
ケース入りの商品が、
バーコードを読み取られ
次々、指定のレーンに仕分けられていく。
イヤホンで丁寧に解説してくれるのは、
日本アクセスの皆さん。
現在の万代は150店舗だが、
彩都センターは200店体制までを、
視野に入れてつくられている。
一方、豆腐やスイーツなど、
柔らかくソーターに適さない商品は、
棚DASと呼ばれるエリアで、
人の手によって店別に仕分けされる。
万代では専用のクレートを、
メーカーに貸し出す。
だから使用済みのクレートは、
洗浄・乾燥されねばならず、
そのラインは完全自動。
そして洗浄済みのクレートを収納する、
クレート専用の自動倉庫。
日本最高のシステムだ。
生鮮エリアの畜産PCソーターの説明は、
万代商品部畜産部の皆さん。
2階の畜産プロセスセンターで、
製造・加工されたミートが、
1階に店別に並ぶ。
昼食後の視察は、
その万代畜産プロセスセンター。
プロセスセンターの説明は、
万代畜産部の光石直起副部長。
残念ながら、衛生上の観点から、
畜産プロセスセンターへは、
カメラ持ち込み禁止。
だから映像はないが、
昨年9月に訪問した時に比べ
設備の充実と生産能力の向上に驚いた。
つきっきりで解説してくれたのは、
畜産部長の石川慎也さん。
知識商人大学1期生。
ありがとう。
そして再び、会議室で講義。
加藤健さんの補足説明と質疑応答。
加藤さんは現在、エリアマネジャーだが、
畜産PCセンターの立ち上げにかかわった。
第2期生の一人。
そして私の講義。
彩都センターの機能をどのように活かすか。
さらにエドワーズ・デミングの14原則。
それが私のまとめのメッセージ。
加藤さんは、
次世代幹部を育成するために
万代知識商人大学を創設した。
いつも、幹部候補生に向けて、
わかりやすい言葉を選んで、
丁寧に話してくれる。
話すだけでなく1日、ともに過ごす。
本当にありがたいことだ。
万代知識商人大学。
第4回講義。
彩都センターに感謝しつつ、終了。
最高の一瞬の輝き。
それが企業のレベルを、
最高に引き上げてくれる。
しかしそれが、
最高の瞬間であると思った途端、
その最高の一瞬は、
引き潮のように去っていく。
怖ろしい。
むしろ、
最高の一瞬が来ないことを、
祈りたくもなって来る。
〈結城義晴〉