みんな、どっか、
痛いとこありますからね。
(小結嘉風)
朝日新聞「折々のことば」
第807回。
大相撲夏場所初日結びの一番。
嘉風は横綱稀勢の里を破った。
今年5月14日のことだ。
横綱は前場所、左上腕部を痛めていた。
しかし嘉風もまた場所前、
稽古中に左足のふくらはぎを痛めていた。
取組後、足の状態を訊かれて、答えた。
納得のいく相撲だったかの質問に、
「150点です」と。
編著者・鷲田清一さん。
「これで納得できないと言えば、
横綱に失礼だと。
この慎みもまたファンには沁みて“痛い”」
みんな、どこかに痛みをもって、
120%の成果を目指している。
それが150点になれば、
この上ない喜び。
それでも謙虚さを失ってはならない。
ホールフーズもウォルマートも、
イオンもセブン&アイも。
あなたも、私も。
さて、イオンリテール米国視察研修。
ダラス・フォートワース空港から、
ニューアーク空港へ。
3時間のフライト。
ニュージャージー、
ニューアーク空港に到着。
すぐにリムジンバスで、南へ。
バスの中で講義して1時間。
着きました。
ウェグマンズ。
現在92店を展開している。
もう売上高は83億ドル。
私の推定で、当たらずとも遠からず。
1ドル100円換算で8300億円。
1店平均89億円。
すごいスーパーマーケットです。
店舗に入るとすぐに、
青果部門の市場が広がる。
店頭のスイカ畑は壁際に。
店舗左翼5分の2が、
フードサービス部門。
手前からベーカリー、サービスデリ。
惣菜から素材へ、
まるでそのプロセスが見えるように、
売場が連なって、一番奥が精肉。
店舗右翼はずらりと並んだレジから、
グロサリー、ファーマシー、リカー。
女性店長のタミーさんが、
丁寧にインタビューに答えてくれた。
名門ジョージタウン大学を卒業して、
すぐにウェグマンズに入った。
初めはナイトマネジャー、
それから各部門のマネジャーを経て、
この店がオープンした2000年に、
初めてストアマネジャーになった。
この店は副店長からずらりと、
マネジメント層はみんな女性。
だからだろう、実に、
もきめ細かな店づくりが徹底されている。
ホスピタリティあふれるレジチェッカー。
どのようにしたら、
あんなサービスができるのか。
「ライト・パースンを採用することです」
明解。
いい人を採用する。
ウェグマンズはご承知のように、
「働きたい企業ランキング」上位の常連。
今年の発表では全米第2位。
そのうえで「ライト・パースン」をとる。
そのために丁寧に3度、4度と面接をする。
身も蓋もない話だが、その通り。
タミーさん、すごい店長。
ありがとうございました。
その後は、
ホールフーズマーケットへ。
ニュージャージーに夜が迫る。
青果部門はいつも通り完璧。
オーガニックの売場には、
独特の匂いがある。
バナナの吊り下げ陳列。
ホールフーズのスイカ畑。
鮮魚部門はこの5時という時間帯でも、
十分な品揃え。
丸魚も突き出し陳列。
精肉部門は対面コーナーが中心。
チームメンバーが顧客に声をかける。
肉の厚さをわかりやすく提示。
これに応じてカットしてくれる。
そして惣菜部門。
夕方のこの部門は、
家に持ち帰る中食、
仕切られたバルで食べる外食、
どちらにも対応できる。
レジの横には、
こんな見事なプレゼンテーション。
そしてサービスカウンターは、
いつも顧客に気を配っている。
ニュージャージーに着いて、
ウェグマンズとホールフーズ。
片やインディペンデントを貫く、
片や上場したあとアマゾン傘下に。
「みんな、どっか、
痛いとこがある」
それをこらえ、辛抱し、
乗り越えて、成果を挙げる。
謙虚に、真摯に。
120%を求めて。
そうすれば、時には、
神が150点を与えてくれることもある。
それにまた感謝しつつ、
痛みをこらえて精進する。
それがみんなの人生だ。
相撲取りも、商人も。
(つづきます)
〈結城義晴〉