猫の目で見る博物誌――。
台風18号、すごい雨、すごい風。
九州、四国、中国、近畿のみなさん、
お見舞い申し上げます。
二百十日を過ぎて、台風の季節。
窓辺で空を見る。
台風のまじかに迫る土地に居て
友の届し鳥取梨を食ふ
〈一日一首より〉
台風と梨。
なぜか、あう。
昨日の朝日新聞「天声人語」
「スーパーの果物売り場の中央に
「幸水」や「豊水」が鎮座する季節である」
梨の季節。
「積み上げられた淡い色の球を見ると、
食べてもいないのに、
シャカシャカした食感が
口内に広がる」
梨は、バラ科ナシ属。
学名はPyrus pyrifolia。
和なしは、Pyrus pyrifolia var. culta。
中国なしはPyrus bretschneideri、
洋なしはPyrus communis。
天声人語。
「ナシの歴史をひもとけば、
戦国の世のごとき
下克上の繰り返しである」
江戸末期は「淡雪」
「あわゆき」と美しい名前。
江戸っ子も梨は大好きだった。
明治時代に入ると、
「太平」「幸蔵(構造)」が台頭。
大正時代に一世を風靡したのが、
ご存知「長十郎」、「ちょうじゅうろう」。
そして戦後昭和の覇者は、
おなじみの「二十世紀」
「ナシは品種の改良がとても盛ん。
いったん王者になっても
栄華は続きません」
斎藤寿広さん。
農研機構のナシ育成担当。
梨育成の要件。
第1に人工授粉など手間を省けるか、
第2に天候不順に強いか、
第3に病害に耐えられるか。
近年のナシの改良のトレンド。
より甘く、
より酸味を抑え、
より柔らかく。
その代表例が、
夏場の幸水、
秋口の豊水。
両者は系統上は親子にあたる。
全国の栽培面積の65%を占める。
最新の品種が「なるみ」
農研機構が開発した。
「授粉をしなくても安定して実が生る」
だから「なるみ」と命名。
「順調に普及すれば、
数年のうちに消費者の手に届く」
梨食めば梨の音して身の内に
梨染み透るひとりの夜を
〈美原凍子〉
梨にも栄枯盛衰がある。
台風が迫ると、想像力が膨らむ。
そんななかで、
シャカシャカした食感の梨を食う。
猫はあまり好きではありませんが、
おとうさんは、ほんとに好きです。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)