朝日新聞「折々のことば」第898回。
よしとする
生きたあかしが
何もない
〈浅利桂子(73歳))
編著者の鷲田清一さん。
「たいていの人は生きた証しなど持てず、
未練や後悔を抱えつつ亡くなってゆくし、
持てば持ったで後は、
思い出とともに生きてゆくしかない」
「ならばぽんとこう突き放したほうが、
いっそ爽やか」
納得。
そうしてみると、
深い句ではある。
「何かを言い切ることで
得られる軽やかさというのも、
人生への一つの折り合いのつけ方」
「みやぎシルバーネット」9月号の投稿川柳。
日経電子版「経営者ブログ」
鈴木幸一さん。
日本のインターネットの草分けの人。
9月19日に書いたのが、
「ゆっくり年を取る時代」
「いい年をして、相変わらずの旅烏。
移動ばかりしている」
私も同じようなものだ。
「月日は百代の過客にして、
行きかう年もたびびとなり。
舟の上に生涯をうかべ、
馬の口をとらえて老いをむかふるものは、
日々旅にして旅を栖(すみか)とす」
鈴木さんは、奥の細道を歩んだ、
芭蕉の言葉を思い起こす。
「牙歯半ば落ち 左耳聾(ろう)せり」
半ば歯が抜け落ち、
左の耳は聞こえなくなった。
杜甫が老いを嘆いたのは、56歳のとき。
しかし現代は、長寿の社会になった。
『LIFE SIFT』では100年時代を主張する。
ただし、ただし、
「いくら長寿社会になったからといって、
『老い』と『死』が消えるわけではなく、
それは人が生きるということ
そのものでもある」
然り。
今日は、東京の半蔵門。
大木グループ全社員研修会。
大木ヘルスケアホールディングス(株)。
1年に2回、上半期と下半期に、
全社員が集まって研修をする。
1658年(万治元年)創業、
医薬品卸売業の老舗。
来年6月に創業360年を迎えるが、
1975年に株式公開し、
決算期としては今期、
136期を迎えている。
その136期の下半期研修会。
500人近くの従業員が、
全国から参集した。
私の出番は午後一番。
松井秀夫さんが、
自ら講師紹介をしてくださった。
代表取締役会長兼社長。
その松井さんは、
「健康寿命延伸産業」を標榜していて、
大木ヘルスはその中核を担う卸売業に、
進化を遂げなければならないと主張する。
「100年時代」になっても、
健康寿命が伸びねばならない。
私の講演タイトルは、
「すべての仕事はサービス業化する!」
prologueは、
1962年に刊行された『流通革命』。
それから現代の「流通3.0」の時代。
本論として講義したのは、
第1部「仕事を変えよう」
第2部「サービス産業化しよう」
最後は林周二先生が指摘した、
「超卸売業」のことを再び強調した。
2時間10分の講演で、
内容は多岐にわたったが、
「ホッケースティックの関係」は、
覚えておいてほしい。
「間接部門のサービス」も、
コミュニケーションの4つの条件も、
日々、実践してほしいものだ。
最後に記念写真。
会長兼社長の松井秀夫さんと、
代表取締役副社長の松井秀正さん。
このブログの冒頭の鈴木幸一さんは、
心理学者のジーン・トウェンギの言葉を引用する。
ウォールストリートジャーナル誌上で、
スマートフォン世代を描いた記事だ。
「i世代は昔と比べて
大人になるのにも
時間がかかる」
「今の18歳は、まるで、
むかしの15歳のようだ。
彼らはなかなか大人にならないが、
自立や意思決定の経験にも欠ける」
しかし大人になるのが遅いことも、
そう悪いとは思えない。
「大器晩成」というやつだ。
「2000年代と比べると、
2010年代には、
リスクを取りたいとか、
危険な行為にスリルを感じる、
と回答した子供は少なかった」
若者の変化に至る要因を、
トウェンギは分析する。
「コミュニケーションがもっぱら
スマホを通じてなされることで、
お互いが本質的な議論を恐れ、
感情的に安全な場所にいることが
重要になった」
若い世代へのスマホの影響は、
決定的である。
鈴木さんは25年ほど前に、
インターネットの接続サービスを始めた。
「ネットを通じたコンテンツの領域は
果てしなく広がりを見せているのだが、
コミュニケ―ションほど、
膨大な広がりを見せたものはない」
私の今日の講演の最後は、
このコミュニケーションをテーマとした。
「人と人の関係は、
密接であればあるほど、
感情の行き違いが生じたり、
傷付け合ったり厄介なものなのである」
これはコミュニケーションの逆説を意味する。
「それが大きな集合体になることによって
社会が成り立っているのだが、
それを避けている限り、
なかなか大人になれないのである」
鈴木さんは心配する。
「ある意味で、社会全体が
本当の『コミュニケーション欠乏症』に
なっていくのではないか」
だからこそ逆に、
コミュニケーション力のある組織が、
小売りサービス業を制することになる。
〈結城義晴〉