猫の目で見る博物誌――。
スーパーマーケットの売場に、
イチゴが並んでいます。
イチゴの季節はいつなのでしょう。
イチゴはバラ科の多年草。
一般には、バラ科オランダイチゴ属。
学名はFragaria ×ananassaDuchesne ex Rozier。
イチゴとして流通・消費される商品は、
ほぼすべてがオランダイチゴ。
英語ではstrawberry。
これもオランダイチゴ属。
しかし広くとらえると、
キイチゴ属とヘビイチゴ属など、
「野イチゴ」も含まれる。
イチゴにとって、
光が当たることは重要だ。
それが発芽の条件となる。
この性質を「光発芽種子」という。
「こうはつがしゅし」と読む。
あるいは「明発芽種子」(めいはつがしゅし)、
「好光性種子」(こうこうせいしゅし)という。
イチゴは果物として食べられる。
その食べる部分は実ではない。
「花托」(かたく)が発達したもの。
花托は茎が厚くなったもので、
そこから花が育つ。
イチゴの表面に粒粒が分布している。
その粒々の一つひとつが、
実は果実である。
このような現象を「偽果」という。
特にイチゴの場合は「イチゴ状果」と呼ぶ。
食べ方は生食が一番。
牛乳やコンデンスミルク、
あるいはヨーグルトをかけて食べる。
ケーキやタルトのトッピングにされる。
ジャムやジュースにされることも多い。
なお、加工用のイチゴ味のほとんどは、
イチゴの成分を含んでいない。
酢酸アミル、アネトールなどを配合して、
イチゴ香料をつくり、赤の着色料を使う。
可食部分の成分は、
一般的には9割が水分で糖質が1割。
タンパク質と繊維質が約1%。
総カロリーは100gで35kcal。
また、イチゴは、
豊富なビタミンCを含有する。
「アスコルビン酸」である。
さらにアントシアニンを含む。
これはポリフェノールの一種。
キシリトールも含有されている。
こうしてみると、
イチゴは実に素晴らしい食品だ。
野生のイチゴは、
人類が始まったころから、
ヨーロッパやアジアで食べられていた。
現在のオランダイチゴは、
200年ほど前に、
南アメリカと北アメリカの品種が、
自然交雑した品種が始まり。
日本には江戸時代に入った。
しかし本格的な栽培は1872年から。
さらに産業化されたのは戦後のこと。
新しい果物である。
イチゴは1年中、出荷されるが、
「一季成りイチゴ」は、
冬から春に実をつける。
これが旬のイチゴ。
「四季成りイチゴ」は、
夏から秋に偽果が成る。
これが「夏イチゴ」と呼ばれる。
農産物には種苗法に基づいて、
品種登録制度がある。
植物新品種育成者の権利保護を行い、
新品種の育成の振興を図ることが目的。
イチゴに関しては、
2016年11月14日の時点で、
登録品種は258種。
そのうち登録維持されているのは129種。
代表品種は「とよのか」と「女峰」(にょほう)。
「東の女峰、西のとよのか」と言われた。
とよのかは1984年に久留米野菜試験場で、
「ひみこ」に「はるのか」を交配した品種。
酸味が少なく大粒で甘い。
女峰は1985年、栃木県農業試験場で、
それまでの「麗紅」の代替品種として開発。
その「麗紅」と「はるのか」「ダナー」を交配。
甘酸っぱい味が特徴。
色が鮮やかで見栄えがよい。
だからショートケーキなどに使われる。
いま、売場に並ぶ品種。
「とちおとめ」
1996年に栃木県農業試験場において、
「とよのか」と「女峰」を交配。
東西の融合だ。
さらに「栃の峰」も交配。
粒が大きく甘さも強いし、
日持ちが良い。
現在、日本最大の生産量。
「あまおう」
2003年、福岡県農業総合試験場園芸研究所。
「久留米53号」に育成系統を交配。
「あかい、まるい、おおきい、うまい」の、
頭文字をとって、
「あ・ま・お・う」とネーミング。
ひと粒40g以上にもなる。
「紅ほっぺ」
2002年に、静岡県経済連が、
「章姫」と「さちのか」を交配。
章姫より果心の色が淡く、
房当たりの花数が少ない。
さちのかよりも果実が大きい。
「きらぴ香」
2017年に品種登録された最新品種。
静岡県農林技術研究所の育成系統を交配。
形は大粒で縦長の円錐形。
赤く染まった果皮にはツヤがあり、
果実はかため。
イチゴの品種は多い。
そして主役はどんどん入れ替わる。
「東の女峰、西のとよのか」から、
「とちおとめ」へ、「あまおう」へ、
そして「きらぴ香」へ。
開発者の努力のたまものだろうが、
これまたコモディティ化現象と、
競争しながらポジショニングを構築する。
ほろほろと手をこほれたる苺哉
〈正岡子規〉
子規には、イチゴの句が多い。
1年中、
ショートケーキなどにのっているから、
イチゴは季節がなくなった。
でも、やっぱり、いまが、
イチゴの季節です。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)