猫の目で見る博物誌――。
新じゃがの季節です。
なんだかうれしい。
じゃがいもの「新物」。
それが「新じゃが」。
新じゃがは、春先から初夏に収穫され、
すぐに出荷されて流通、
販売されているジャガイモ。
普通のジャガイモは、
冬から春先にかけて植えられ、
秋に収穫される。
新じゃがは、
冬に植えられて、春先に収穫される。
そのうえ貯蔵もされずに、
収穫後そのまま出荷される。
ジャガイモは、ナス科ナス属の多年草。
英語では「potato」、
学名はもちろんラテン語で、
Solanum tuberosum L.。
原産は南米の高地、アンデス山脈。
南米を支配したスペイン人が1500年代に、
ヨーロッパに持ち込んだ。
日本にはその後、1600年ごろ、
江戸幕府の初期に、
オランダ人が伝えた。
「ジャガイモ」の名称は、
インドネシアの首都ジャカルタからきた。
ジャカルタを「ジャガトラ」と発音した。
オランダ人はジャガイモを、
ジャカルタから日本に運んだ。
だからジャガトラがジャガイモになった。
「馬鈴薯」(ばれいしょ)の名称は、
中国語からきたと言われる。
形が馬につける鈴に似ているから、
という説もある。
「薯」は芋のこと。
地下の茎の部分に、
デンプンが多く含まれていて、
世界中で食べられている。
地下茎が肥大化して球状になったものを、
「塊茎」(かいけい)というが、
ジャガイモはこの塊茎の代表。
ジャガイモは「種芋」を植えつけて、
それを土寄せして栽培される。
「種芋」は芋から発芽した芽を中心に、
適度な大きさに切り分けたもの。
「奇数羽状複葉」の葉をつける。
その葉の付け根から「花茎」が伸びてきて、
先端に花をつける。
花は星形の花心と5枚の花弁をもつ。
食用にするのは地下茎が肥大化した塊茎。
栽培には酸性の土地が適している。
冷涼な気候、痩せた土地にも強い。
だから日本の最大産地は北海道となった。
しかし、病害や虫の被害を受けやすい。
連作障害も頻繁に起こる。
最大産地の北海道は約8割を生産する。
春に植えつけて、
夏の終わりから秋にかけて収穫する。
二番目の産地は九州。
こちらは二期作が行われる。
秋に植えつけて冬に収穫するものと、
冬に植えつけて春に収穫するもの。
2月から6月ころの新じゃがは、
九州の鹿児島や長崎で収穫される。
5月から8月頃の新じゃがは、
関東の千葉や茨城で収穫される。
7月から8月ころの新じゃがは、
北海道で収穫される。
収穫時期は南から北上していく。
「新じゃが前線」ともいわれる。
ジャガイモ前線ももちろんある。
ジャガイモ前線の「変局温度」は28℃。
東北以南の地方では8月後半以降、
秋の深まりに合わせて、
ゆっくりと日本列島を南下する。
北海道では前線到達がはっきりしない。
新じゃがはビタミン類が、
豊富に含まれている。
とくに収穫したての新じゃがには、
より豊富なビタミンCが含まれている。
そのビタミンCの量はリンゴの約8倍。
俳句の世界のジャガイモが面白い。
単に「じゃがいも、馬鈴薯」などの語句は、
俳句の秋の季語である。
一方、「新じゃが、新じやが」、
あるいは「新薯」「新馬鈴薯」などは、
夏の季語で、全部「しんじゃが」と読む。
残念ながら春の季語ではない。
新じやがを太陽の子と云ひつ食ふ
〈大野林火〉
夏の季語らしい句だ。
新じゃがの入る料理なら何でもよし
〈高澤良一〉
まったくの同感。
新じやがをほつかりと煮て風の町
〈下鉢清子〉
ありがとう。
新じゃがはいいですね。
春から夏にかけて、
人々の心をほっかりさせてくれる。
ありがとう。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)