朝日新聞Digitalの連載。
福岡伸一の「動的平衡」
生物学者の世相批評が面白い。
3月29日版のタイトルは、
「改ざん防止・内なる規準こそ」
財務省の森友決裁文書改ざんだけでなく、
防衛省のPKO派遣部隊日報隠蔽問題が出てきた。
すでに1月には、厚生労働省が、
裁量労働制の労働時間データねつ造。
行政の信用は地に落ちた観がある。
政治も同じように国民の信頼を喪失する。
福岡さんは言う。
「公文書の改ざんを防ぐため、
ハッシュ関数を使って記号化すればよい
というアイデアが出ている」
「ハッシュ関数」とは、
「ポテトや肉を切り刻むように、
文書を細切れの数値列に置き換え、
その数値列を順に次々と繰り込みながら
一定の演算を行うことによって、
文字数字列に変換する操作のこと」
切り刻むことを「hash(ハッシュ)」という。
そしてこの数列値を「ハッシュ値」と呼ぶ。
「たとえば長い文書は、
96cd7e12ab547……みたいになる」
「元の文書のてにをはや句読点の
ひとつでも変更があれば、
たちどころにハッシュ値も変わってしまう」
もともとハッシュ関数は、
データ管理の際の暗号化技術として、
考案されたものだ。
だから公文書を、
このハッシュ関数で保管する。
そうすると簡単には、
改ざんや書き換えができない。
福岡さんはここで自分の世界を振り返る。
「科学の世界でも改ざんの誘惑や動機が
いくらでもあることは、
昨今の論文捏造事件の続発を
引くまでもなく明らかだ」
「出世、予算、教授への忖度(そんたく)」
そして結論。
「改ざんは、
監視や管理を強化すれば
防げるわけではない」
そのとおり。
イソップの太陽と北風。
「自分の仕事を
自分で裏切らないようにする。
このシンプルな規準こそが、
プロフェッショナルの矜持というものだ」
同感。
私たちも、
「自分の仕事を、
自分で裏切らない」
考えること、
書くこと、
語ることにおいて、
一度たりとも
手を抜いたことがない。
それが私の矜持である。
結果として不出来なこともあるし、
それはお許し願うしかないけれど。
さて今日の商人舎流通SuperNews。
2月家計調査統計|
消費支出実質0.1%増で2カ月連続/変動調査値は0.9%減
毎月上旬に発表される。
見ておいてください。
消費支出に占める食料費の割合を、
エンゲル係数という。
2月は26.9%だった。
1月は26.5%、昨年12月は27.9%だった。
やはり年末商戦がの12月は、
食料費の割合が高い。
それから2月の食料費の内訳(単位は円)。
1世帯当たり2月の消費額。
生鮮野菜が6062円、生鮮果物が2594円。
合わせて8656円。
肉類は生鮮肉と加工肉を合わせて7013円。
対して魚介類は5604円。
生鮮3品というけれど、
その3品の比率は、
農産が40.7%、
畜産が33.0%、
水産が26.3%。
この比率が生鮮3部門の割合。
40年前、私が、
関西スーパー広田店で研修したとき、
1日の売上げは
青果50万円、鮮魚100万円、精肉70万円だった。
つまり農産22.7%、
畜産31.8%、
水産45.5%。
もちろん青果部門は、
販売金額は少なかったけれど、
物量は多かった。
それが完全に逆転した。
一方、家計調査の調理食品は9320円。
これが惣菜部門で、
これは農産よりも多い。
水産の1.66倍。
40年前の関西スーパーは、
惣菜部門を設けていなかった。
当時の社長の北野祐次さんは言っていた。
「惣菜は営業利益が出ないから、
直営ではやらない」
2月の家計調査を見るだけで、
隔世の感を感じざるを得ない。
農産のサラダやカットフルーツ、
畜産のローストビーフや生食など、
水産の刺身や焼き魚・煮魚などを、
惣菜と考えるともう今でも、
生鮮3品と惣菜は拮抗している。
こうして数字を見ると、
そのことが鮮明にわかる。
だからいつも数字を見ておかねばならない。
文書をハッシュ関数に置き換えるように、
印象を数字に置き換える。
昔の感覚と今の数字を比較する。
「数字は好きですか」
あなたは数字が好きですか。
実は私は大好きなのです。
数字の向う側の世界を、
数字を通して垣間見る。
そして前向きに、肯定的に、
モノを考える。
数字に媒介してもらうことによって、
雑念やしがらみや怨念が消える。
ゲーム感覚で、むしろ純粋な気分で、
状況が見えてくる。
数字はそういった
浄化の機能を持っているのです。
想像力を刺激する
要素をそなえているのです。
ただし、数字で人を
縛ってはいけません。
せっかくの浄化作用や想像の力が、
いっぺんにかき消されてしまいます。
いちじく
にんじん
さんしょに
しいたけ
ごぼうに
むくろじゅ
ななくさ
はつたけ
きゅうりに
とうがん
数字と商品を素直に結びつけて、
商業ビジネスにかかわる私たちは、
毎日、毎日、
夢を追いつづけています。
数字は清くて、正しくて、
美しくて、しかしも現実的です。
数字と商品を愛でることこそ、
私たちの仕事なのです。
さあ、あなたは
数字が好きになりましたか。
私と同じように
大好きになりましたか。
(拙著「Message」より)
〈結城義晴〉