猫の目で見る博物誌――。
タケノコの季節です。
水タケノコは1年中あるけれど、
タケノコは今が旬。
タケノコは、
イネ科タケ亜科タケの若芽。
漢字で「筍」、
あるいはそのまま「竹の子」と書く。
英語で「竹」は”bamboo”、
タケノコは”bamboo shoot”。
竹の学名は、
「Bambuseae Kunth ex Dumort.」
竹には節があるが、
竹の地下茎にも節がある。
その節ごとに根と芽がある。
主に3~4年目の芽が成長する。
日本など温帯では春先に伸び始めるが、
熱帯地方では夏に伸びる。
成長の速さがすごい。
昼夜を問わず伸びる。
地下にあるときに成長し始めるが、
地表に顔を出すころには急成長する。
被子植物のツル性を有するものを除けば、
最も成長が速い。
漢字の「筍」は、竹冠に「旬」と書く。
この「旬」は10日間の意味で、
10日のうちに成長するからともいわれる。
急成長のあと「若竹」となって皮を落とす。
その後、高さや太さは変化せず、
硬くなっていって、成竹となる。
その後、10年くらい生きる。
タケノコは、地中にあるときに、
すべての節が形成される。
そして根に近い、下の節から、
順番に伸長していく。
タケノコの皮は「稈鞘」(かんしょう)という。
柔らかい本体を保護する。
同時に節の成長を助ける。
地上に顔を出すと、
間もなく成長が止まる。
「止まりタケノコ」と呼ばれるのは、
地上に顔を出してから、
そのまま枯れて腐ってしまう現象だ。
全体の5~7割が「止まりタケノコ」となる。
これはある種の淘汰だ。
春先に地面から芽が出かけているものが、
「タケノコ」。
それが日本や中国で食用になる。
数メートル程度に成長したものも、
穂先の部分を刈り取って食べる。
これを「穂先タケノコ」という。
タケノコは、掘り出して、切断すると、
その直後から急激に「えぐみ」がでる。
掘り採ってから時間が経つほど、
硬くなるし、えぐみが強くなる。
だからできるだけ早いうちに、
アク抜きして下ごしらえしたり、
調理したりするのがいい。
タケノコのアクの主成分は、
シュウ酸、ホモゲンチジン酸、その配糖体など。
だからアルカリ性の水で取り除く。
それが米糠や米のとぎ汁、または重曹。
アミノ酸の一種の「チロシン」を、
100g中690mgも含んでいて、
これが酵素の働きによって、
ホモゲンチジン酸に変化する。
だから、加熱して酵素の働きを止める。
これが「アク止め」である。
早いほどいい。
「湯を沸かしてから掘れ」などと言われる。
冷蔵すれば、
香りや味の劣化を防ぐことができる。
しかし、下ごしらえは早いほどよい。
食用のタケノコの代表は、
モウソウチク(孟宗竹)。
皮は黒斑と粗毛に覆われて、
生産と出荷の時期は3月、4月。
ハチク(淡竹)は、皮が淡紅色。
時期は4月、5月月。
美味だが出荷量は少ない。
マダケ(真竹)・ニガタケ(苦竹)は、
皮が薄い黒斑に覆われれいる。
時期は5月、6月。
ネマガリダケは、弓状に曲がって生える。
時期は5月、6月で、
青森県の津軽地方でよく食べられる。
カンチクは、黄色または黒紫色。
これは秋のタケノコで、時期は10月。
高級品としては「乙訓産」がある。
京都府の旧乙訓郡で生産される。
現在の向日市・長岡京市・大山崎町。
乙訓産は、竹林をふかふかの土壌にして、
日当たりも調整されて育てられる。
「合馬たけのこ」は福岡県北九州市産。
「水煮」はレトルトパックや缶詰で流通している。
ほとんどが中国からの輸入品。
「朝掘り筍」は、掘ったその日のうちに、
直売所やスーパーマーケットに出荷される。
特に新鮮なタケノコは、
生、または軽く湯がいて、
刺身として食べる。
もちろん煮物がうまい。
鰹節で出汁を煮含める。
てんぷらやタケノコご飯もうまい。
栄養成分としては、
タンパク質、カリウム、食物繊維、
ビタミンはB1、B2、C、Eを含む。
タケノコの季節には、
できるだけ食べたい。
小林一茶。
筍も名乗るか唯我独尊と
お釈迦様は誕生すると、
七歩歩いて、天と地を指さし、
「天上天下唯我独尊」と名乗った。
この世で、我ほど尊い者はいない。
そんな誤解がある。
「唯我独尊」の本来の意味は、
「ただ、われ、ひとりとして、とうとし」。
私のほかにもう一人、
私がいるならば、
私はいなくてもいい。
しかし、私という命は、
この世の中に唯、独りしかいない。
私が私になる以外に誰も、
私にはなってくれない。
だから尊い。
おなじようにすべての命が、
独りとして尊い。
一茶がこの意味を知っていたか。
それはわからない。
知っていたのだと思う。
タケノコの季節。
春から初夏にかけて、
すべての命が尊いと思わせてくれる。
ありがとう。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)