毎日新聞巻頭コラム「余録」
「今時珍しい閉鎖国家の独裁者も、
自由貿易に異を唱える超大国の大統領も、
分け隔てなく行きあえる交易都市国家
シンガポールでの米朝首脳会談となった」
金正恩委員長と、
ドナルド・トランプ大統領。
来月6月の12日。
まあ、いい場所、いい時期だろう。
「世界が息をのんで見守る
”朝鮮半島の非核化”の行方だ」
「非核化」だけでなく、
これからの世界がどうなるのかを、
占う意味がある。
私はダラスから、
サンフランシスコへやってきた。
この地にいて、
シンガポールの会談のことを想像すると、
不思議な感覚になる。
朝鮮半島も、インドシナ半島も、
日本列島も遠い世界のことのようだ。
アメリカ人にとっては。
そのことは理解しておかねばならない。
さて、平和堂米国研修第15団。
朝からアラメダショッピングセンターへ。
まずはセーフウェイを視察。
この店は特に花売場が素晴らしい。
全米のアルバートソングループで最高。
そして青果部門も実にいい出来栄えだ。
Mother’s Dayの取組みもきちんとしている。
アラメダ島の閉鎖商圏で、
隣のトレーダー・ジョーと、
相乗効果を出しつつ、
マーケットを分け合っている。
だから客数は多い。
客数が多いと、商売は好循環する。
会社としては苦境にある同社だが、
この店は素晴らしい。
それが商売である。
一方のトレーダー・ジョー。
どの店も例外なく大繁盛。
入り口のバナナの売場。
そして第一エンドは、
フィアレスフライアーのチラシと、
みごとに連動している。
この店のPOPやサインは、
専属のアーティストの作品。
全米のトレーダー・ジョーのなかでも、
とくに素晴らしい。
レジの応対もフレンドリーだ。
ホスピタリティというより、
限りなくフレンドリー。
それが何よりいい。
インタビュー。
ファーストメイトのエリック君。
8年前にトレーダー・ジョーに入った。
「この店もこの会社も大好きだ」。
そして一問一答に、
考えつつ、丁寧に答えてくれた。
「トレーダー・ジョーはなぜ、
みんなフレンドリーなのか?」
「もともとフレンドリーな人を雇うから」
「そうではない人が部下にいるときは、
どうしたらいいのか?」
「自分が楽しんで仕事するしかないよ。
そして巻き込むんだよ」
真剣に聞く平和堂第15団の面々。
大満足で全員写真。
アラメダショッピングセンターの、
TJマックス。
オフプライスストアのコンセプトは、
この言葉がよく表している。
それからターゲット。
入り口の前に、象徴の赤い球。
ターゲットは売場が回復してきた。
壁面の写真は、ユニクロに似ている。
そして大サイズのブランドのコーナー。
このマネキン。
そしてこのマネキンも。
隣にはマタニティ売場。
そして同じようにこのマネキン。
このリアリズムがアメリカ小売業だ。
広い通路も整然と組み立てられている。
店舗左サイドの一角に食品。
完全なコンビニエンスニーズ対応。
ターゲットに満足して、
ウォルマートとの差異性を説明してから、
ランチはインアウトバーガー。
行列をつくって、自分で注文する。
44人分のハンバーガーづくりを、
つつがなく、オペレーションする。
そして満足のランチ。
私はプロテインバーガー。
ランチが終わって、
バークレーボウル。
ここでは特に礼儀正しく視察。
オーガニックだけの売場で、
これだけのものができる。
世界広しと言えど、
バークレーボウルだけだ。
そして通常の商品の青果部門。
世界一。
この長い陳列線の商品が、
1品1品吟味されている。
選別値入れによって、
多SKU化する。
それは顧客にとっては買いやすく、
店にとってはマージンミックスになる。
野菜の多段ケースには、
こんな珍しい商品もあるのか、
という多種多様な品揃え。
若手の店員が、
値段を見ながらメモして、
価格を覚えている。
鮮魚・精肉も青果と同レベルの品質を誇る。
惣菜はバークレーの味が顧客をつかんでいる。
チェッカーはばら売りの青果の値段を、
1品1品全部覚えている。
これがすごい。
今日も又バークレーボウルを堪能し、
感動した。
ダイアン・ヤスダさん、
ありがとうございました。
最後はホールフーズマーケット。
まず、ギルマン店。
2016年オープンの都市型コンパクト店舗。
天井はスケルトン。
デザインは斬新。
青果部門は左サイドに壁をつくって、
市場の雰囲気を確保する。
左壁面は葉物などの野菜の立体陳列。
中央は平台に美しく並べられる。
その奥はチーズ売場、ワイン売場、
チョコレート売場で構成される。
スペシャルティ部門である。
そして左に曲がって、
ブルワリー売場は美しい。
さらにバルク売場から、
奥主通路へ向かって、
ミートとシーフードの対面売場。
さらに店舗左翼は、
惣菜デリのコーナー。
店舗の3分の1ほどを使って、
サービスデリと対面デリ売場が展開され、
ここで購入して、
イートインコーナーで食べる。
いわゆるグロサラント。
チェックスタンドは、
青果の裏側に設置されている。
ユニークなレイアウトだ。
大都市郊外の中型店は、
全体に商品構成を絞り込んで、
そのかわりにデリを強化し、
コーヒーショップと組み合わせる。
よくできた店である。
もう1店は、
サンフランシスコ市内の小型店。
1万5000平方フィート(460坪)。
ホールフーズのフルラインの店舗から、
少しずつアイテムを絞り込んで、
みごとに再生したフォーマット。
青果部門のバナナ売場は、
ご覧の吊り下げ陳列。
苦肉の策で考え出した陳列方式だが、
これが意外にインパクトがあって、
レギュラー店舗でも採用され始めた。
セルフデリも最小限の売場だが、
十分に機能している。
店舗左サイドは、
対面惣菜から精肉、鮮魚売場まで。
その前面にワイン売場と、
リーチインケースのビール。
デリのなかのチーズ売場は、
これだけの充実ぶり。
肉の対面売場もフェイスを少なくして、
品揃えを確保した。
コーナーを曲がって鮮魚の対面売場。
ここまで作業場がつながっていて、
最低人員でも対面サービスができる。
奥壁面はリーチインケースが続く。
乳製品はこれだけの品揃え。
そして店舗右翼のレジ部門につながるが、
いつも長い行列ができる。
そのレジは銀行方式で、
意外にスムーズに、そして公平に、
チェックアウトすることができる。
さらにこの店は、
インスタカートと契約して、
宅配サービスをしている。
日本人二世の高橋秀輝さんと会った。
大学院に通って、経済地理学を学ぶ。
その研究の一環でホールフーズに勤める。
ホールフーズがアマゾンに買収され、
アマゾンの顧客が以前より多く、
ホールフーズに来店する。
すると特売ハンターのような買い方をして、
ホールフーズの生態系が崩れる。
それが現場にとって悩みの種だとか。
つまりホールフーズが、
ディスカウント販売すると、
ウォルマートの顧客がやってくる。
それが現場オペレーションを乱す。
実に有益な発言だった。
今日も、いい店を巡った。
最後にちょっとだけ観光。
バスで渋滞を迂回していくと、
サンフランシスコ湾が見える。
そして大きな橋が見えてきた。
1935年の建造。
そうです。ゴールデンゲートブリッジ。
サンフランシスコに来たら、
寄っていかねば失礼だ。
第15団団員も、
それぞれに記念写真。
ほんとうにうれしそうだ。
そして全員でハトッピーのポーズ。
ダラスでアメリカ小売業の基本を学び、
ベイエリアでとんがり店舗を学習する。
いい研修ができて、私も満足だ。
(つづきます)
〈結城義晴〉