8月最後の土曜日。
山車が出て、夏祭り。
夜空には月が美しい。
月に叢雲。
満月。
望遠レンズで見えるやや黒い部分は、
「海」と呼ばれる。
雨の海、晴れの海、静かの海、
危機の海、豊かの海。
名前がついている。
中秋の名月は八月十五夜。
今年は9月24日で、1カ月先になる。
さて、朝日新聞「天声人語」
明治の俳人正岡子規。
写実を強調した。
しかしコラムニストの故天野祐吉さんが、
くすりとさせる句ばかり選んだ。
『笑う子規』
パロディもある。
めでたさも一茶位や雑煮餅
小林一茶のもじり。
もちろん。
めでたさも中位なりおらが春
朝日新聞東京本社版。
「だじゃれで遊ぶ子規の句が見つかった」
1897年に新年会を開いて福引をし、
景品に合わせて句を詠んだ。
弟子の高浜虚子や河東碧梧桐らが参集。
新年や昔より窮す猶(なお)窮す
当たった景品は急須。
この句に添えられた詞書(ことばがき)は、
「福引にキウスを得て発句に窮す」
その正岡子規の辞世の句。
糸瓜咲て痰のつまりし仏かな
糸瓜は「へちま」、痰は「たん」。
「子規は、痰を切るため、
糸瓜水を愛用していたようだ。
自分を仏に見立てた34歳の絶筆である」
明治35年(1902年)9月19日、早世。
中秋の名月の直前だった。
今日の読売新聞の記事。
「日本人がイグ・ノーベル賞に輝く理由」
ノーベル賞は毎年10月に発表される。
イグ・ノーベル賞の発表は、
前の月の9月。
ユーモアあふれる研究に贈られる。
こちらは11年連続で、
日本人が受賞する快挙。
1991年、米国のユーモア科学誌が、
この賞を創設。
「Annals of Improbable Research」
「風変わりな研究年報」
編集長はマーク・エイブラハムズ。
受賞対象は、
「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」
「ignoble」は「不名誉な、恥ずべき」の意味。
ここからもじった賞だ。
ノーベル賞と同じ分野もあるし、
全く無関係なジャンルもある。
今年の授賞式は9月14日。
会場はボストン近郊のハーバード大学、
サンダースシアター。
賞金は出ない。
出席する受賞者の旅費も自己負担。
式典はユーモアにあふれる。
最初に、会場に集まった人たちが、
一斉に紙飛行機を壇上に飛ばす。
散らかった紙飛行機を片づける掃除係が、
かつて本家ノーベル賞を受賞した、
ハーバード大学教授。
「笑わせ、考えさせる」研究が対象だから、
授賞式でも受賞者たちは、
「笑わせてやろう」と意気込む。
奇抜な扮装やユーモラスな研究実演など、
笑いの材料には事欠かない。
式典の恒例演出は、
受賞者がスピーチを始めて1分過ぎると、
小さな女の子が受賞者に、
歩み寄って言い放つ。
「もう飽きちゃったから
スピーチをやめてちょうだい」
受賞者は女の子に菓子を与えるなど
「懐柔」工作をして、スピーチを続ける。
これが「お約束」
このイグ・ノーベル賞を、
日本人が数多く受賞している理由。
賞の創設者マーク・エイブラハムズ。
「(日本人の研究者は)好奇心が旺盛で
一心不乱に研究に取り組む。
まるで自分が興味を向けたこと以外、
他の世界がなくなったかのような集中力」
受賞者が多いのは、
米国以外では日本と英国。
「両国に共通するのは、
とっぴなことをする人たちを受け入れ、
さらに誇りに思う文化があること」と、
マーク編集長。
正岡子規のパロディに通じる。
北里大学の馬渕清資名誉教授は、
「バナナの皮を踏んだ時の滑りやすさ」
の研究で2014年に物理学賞を受賞。
そのイグ・ノーベル賞受賞の馬淵さん。
「”面白い”ということが、
サイエンスの本質だ」
英語のinterestingとfunny。
前者は「興味深い」、後者は「おかしい」。
日本語では「面白い」の一語に集約される。
科学者の視点のinterestingが、
世間から見るとfunnyに映る。
日本の研究者は科学の本質「面白い」を、
無意識のうちにわかっているので、
研究は次々と生まれてくるのだ――。
米国の科学者にももちろん受賞者は多い。
しかし、大学などの研究現場では、
研究費の獲得が日本以上に至上命題で、
一見バカバカしい研究に、
取り組む「余力」に乏しい。
「日本はその点、まだ恵まれている」
「好き勝手な研究を許容する雰囲気が
日本の研究現場に残っている」
昨年受賞した北大の吉澤和徳准教授。
「昆虫トリカヘチャタテの発見」で受賞。
この昆虫の生殖器の形状は、
メスとオスとで逆になっている。
「日本の研究者にとって、
奇人や変人という評価は一種の褒め言葉。
社会が寛容で、ある程度は
自由に研究できる素地がある」
イグ・ノーベル賞は、
「その人以外には誰も目を向けず、
世に出ることはなかったと
思われる研究をした人」に光を当てる。
「イグ・ノーベル賞に見られる
笑いやユーモアは
社会の豊かさの証しでもある」
同感だ。
もう一つのニュースはフィンランドから。
第23回エアギター世界選手権。
日本人女性・名倉七海さん(23歳)が、
3年ぶり2度目の優勝を果たした。
名倉さんは「セブン・シーズ」の名で活動中。
歌舞伎の「連獅子」を連想させる演技は、
他を圧していた。
日本人の過去の優勝は、
お笑いコンビ「ダイノジ」の大地洋輔。
2006年と2007年に2連覇。
エアギターもある種のパロディだ。
意外かもしれないが、
日本人には本質的に、
このユーモアがある。
今日のニュース3本――。
商売、商売。
生真面目、生真面目。
それもいい。
しかし日本の小売業の売場や店舗に、
もっとパロディがあっていい。
ユーモアがあっていい。
それが私たちの社会の「豊かさ」を、
示すものでもあるのだから。
〈結城義晴〉