今日12月29日は帰省ラッシュ。
「帰省」という言葉、とても、いい。
一般的な意味は「故郷に帰ること」。
もともとの意味は、
「故郷に帰って親の安否を気遣うこと」
さらに「師のもとにおもむくこと」
帰省できる人々は幸せだ。
私にはもう、親がいない。
伯父夫妻が福岡に健在で、
だから今の私にとって帰省といえば、
伯父伯母の安否を気遣うことだろう。
師も一人ずつ逝ってしまった。
小学校、中学校、高校の師とは、
さみしいけれど、今や音信も交流もない。
多分、ほとんどの先生が、
亡くなられていると思う。
大学の師は、壽里茂先生。
早稲田大学名誉教授。
私は産業社会学研究の壽里ゼミに属した。
その壽里先生も永眠された。
社会人になってからは、
商業界初代主幹の倉本長治先生、
二代主幹の倉本初夫先生。
東洋大学名誉教授の川崎進一先生、
ペガサスクラブの渥美俊一先生。
流通産業研究所の上野光平先生、
商人舎最高顧問の杉山昭次郎先生。
リテイルサイエンス研究所の城功先生、
日本生産性本部の細谷泰雄先生、
商業問題研究所の高山邦輔先生。
(株)商業界で編集の仕事をしていたから、
とてもラッキーなことに、
たくさんの素晴らしい師があった。
緒方知行さん。
そして今西武さん、高橋栄松さん。
商業界の上司で、
師のような存在でもあったが、
早々と亡くなってしまった。
アカデミズムでは、
慶応義塾大学の村田昭治先生、
学習院大学の田島義弘先生、
一橋大学の田内幸一先生。
ほかにもずいぶん多くの師から、
膨大なものを教えていただいた。
しかしみんな、逝去された。
だから師のもとに赴くこともできない。
帰省ラッシュで故郷に帰る人々には、
ちょっとうらやましさを感じる。
その今日、この冬一番の寒気が、
日本列島を覆った。
西日本新聞の巻頭コラム「春秋」
今日は上手い。
「除夜の鐘。人間の煩悩は108ある」
こんな解釈も紹介。
「四苦(4×9=36)と八苦(8×9=72)を
足せば108」
「この人も煩悩にとりつかれたのか」
「2011年以降の報酬額を
約90億円少なく装った上、
私的な損失約18億円を
会社の負担で処理させた、とされる」
「ざっと合わせて108億円に上る」
「クリスマスに続いて年越しも
拘置所で迎える境遇のよう」
「全国各地でゴーン、ゴーンと
鳴り響く除夜の鐘」
朝日新聞「折々のことば」
第1330回。
「全自動忖度(そんたく)機」
(私家版・今年の新語大賞)
著述家・菅野完(すがのたもつ)さんの新語。
それが拡散した。
「あからさまな指示がなくとも
上の”意向”を察して
一様に、無反省に動く」
「忖度は本来、他人に思いをはせ、
心中を推し量るという
正の想像力を意味する」
しかし「それが組織人の
悲しいまでにいじましい
負の習性を意味するものにずれた」
もちろん2017年のモリカケ問題の際に、
盛んに使われて流行語となった。
その「忖度」と「洗濯」をひっかけて、
「自動忖度機」
「社畜」は、
作家・安土敏さんの言葉。
安土敏は荒井伸也さんのこと。
サミット社長・会長を歴任した。
勤めている会社に飼い慣らされて、
「会社の家畜」化したサラリーマン。
これも「全自動忖度機」と似ている。
荒井さんが次々に、
言葉を創り出していたころ、
私はずっと荒井さんと交流していて、
機知にとんだ知性に触れた。
知識商人は、
自動忖度機ではいけないし、
社畜でももちろんいけない。
「脱グライダー商人」であってほしい。
自分のエンジンをもって、
自分の意思で仕事する商人だ。
最後に日経新聞「大機小機」
タイトルは「不確実性の時代へ」
コラムニストは硬骨漢の一直さん。
「めちゃくちゃだとは予想していたが、
ここまでひどいとは思わなかった――」
ニューヨーク・タイムズの寄稿家の述懐。
もちろんトランプ大統領のこと。
米国の政策の混乱ぶりは予想を超えていた。
フランスのマクロン大統領も、
ドイツのメルケル首相も、
ロシアのプーチン大統領も、
「欧米諸国の政治状況が
きわめて不安定になっている背景に、
人工知能(AI)に代表される
急激なデジタル革命があること
は間違いない」
デジタル革命は、
いいことばかりではない。
社会の変容をもたらす。
「技術の進歩は止められないが、
これまでは新しい技術が登場すれば
新たな職場が生まれた。
しかし、人間よりも知能が高い
アルゴリズムが登場しつつある時代では、
そんな楽観はできまい」
楽観は絶対に許されない。
「米国の景気拡大は10年目に入り、
世界経済は循環的に見ても、
保護主義にこだわる米国の
独善的経済政策からしても、
減速過程に入る可能性が高い」
来年は世界経済の減速。
それは日本の景気や商売にも影響する。
「不確実な時代に入ってゆく。
リスクに備えよう」
不確実な時代の感覚と認識が、
企業にM&Aを促進させる。
人々に安定志向を植え付ける。
それが小売流通業の人手不足につながる。
たとえば人手不足への対応は、
テクニックで解消することなどできない。
帰省ラッシュの12月29日。
その「不確実な時代のリスク」を思った。
こういう時には昨日に続いて、
ウィンストン・チャーチルの言葉。
「変転する状況のただ中で、
ひとりの人間が終始一貫性を保つ
ただひとつの可能性は、
すべてを支配する不変の目標に
忠実でありながら、
状況に応じて変化することにある」
変わらぬことと、
変わること。
それを見極める英知こそが、
求められる。
〈結城義晴〉