猫の目で見る博物誌――。
もうお正月がやってきます。
お正月にはお節料理。
五節句や五節会で供された料理です。
五節句(ごせっく)は、
季節の節目の行事。
人日(じんじつ)1月7日。
上巳(じょうし)3月3日、
端午(たんご)5月5日、
七夕(しちせき)7月7日。
そして重陽(ちょうよう)9月9日。
五節会(ごせちえ)は、
奈良時代から続く宮廷の行事。
元日(1月元旦)、
白馬(あおうま、1月7日)、
踏歌(とうか、1月16日)、
端午(5月5日)、
そして豊明(とよあかり、11月新嘗祭翌日)。
これらの節句や節会に料理が出された。
それが「御節料理」の始まり。
そのなかで一番ポピュラーになって、
庶民も楽しむようになったのが、
正月元旦の「お節料理」。
〈写真は紀文のおせち三段重〉
正月のお節料理には、台所を休ませ、
女性を家事から解放する意味があって、
私はそれが好きだ。
歴史と伝統があるから、
「おせち」には形式と分類が生まれた。
懐石料理と同じようなコース料理である。
第1に「祝い肴(三つ肴)」
第2に「口取り」
第3に「焼き物」
第4に「酢の物」
第5に「煮物、煮しめ」
祝い肴は主に関東と関西で異なる。
関東では黒豆、数の子、田作り、
関西では黒豆、数の子、たたきごぼう。
「黒豆」は、邪気払いの料理、
さらに黒く日焼けするほど、
マメに働けるようにとの願い。
「数の子」はニシンの腹子、
子孫繁栄を願う縁起物。
関東の「田作り」は、
カタクチイワシの稚魚を、
干して飴炊きにした料理。
カタクチイワシを肥料として使うと、
田畑が豊作になった。
ここから五穀豊穣を願う料理となった。
関西の「たたきごぼう」は、
地中深くに根が入っていくごぼうは、
家の基礎が堅牢であることを願う。
口取りは、かまぼこや伊達巻、きんとんなど。
「紅白かまぼこ」は、おめでたさを表す。
赤には魔除け、白には清浄の意味がある。
「伊達巻き」は、形が巻物に似ている。
知識が増えるように。
「きんとん」は漢字で「金団」、
金運を呼ぶ縁起物。
酢の物の代表は、「紅白なます」。
「水引」をかたどっている。
水引は祝儀・不祝儀の際に、
贈答品の包み紙などにかける帯紐。
平安や平和を願う意味。
焼き物はまず「鯛の姿焼き」。
恵比寿様が持つ魚として、
ハレの食卓の魚。
「めでたい」の語呂合わせもある。
それから「鰤(ぶり)の照り焼き」は、
出世魚で立身出世を願う。
「車海老艶煮(つやに)」は、長寿の願い。
エビは、腰が曲がる。
お年寄りのように、
腰が曲がるまで長生きを、との思い。
煮物では、「煮蛤(にはまぐり)」が、
左右の貝がピッタリ合って、
夫婦円満を願う。
「昆布巻き」は、
「よろこぶ」に通ずる料理。
「筑前煮」は土の中で根を張る根菜を煮る。
末永い幸せを願う料理。
レンコンは穴があるから見通しがきくし、
里芋は小芋をたくさんつけるから子孫繁栄。
これ以外にもお節料理には、
いわれや願いが込められている。
そのおせち料理は、重箱に詰める。
先の敗戦の後に定着してきた。
「幸せを重ねる」という意図がある。
正式な段数は四段とされる。
「三」は、完全な数を意味する。
その「三」の上にもう一段重ねた四段。
「一の重」「二の重」「三の重」と呼び、
「四」は「死」を連想させるから、
「与の重」と書く。
「一の重」には祝い肴と口取りを詰める。
「二の重」には 焼き物。
鯛や鰤、海老などの海の幸を詰める。
「三の重」には酢の物の紅白なますなど、
「与の重」には煮物。
「三段重」にする場合は、
一の重に祝い肴と口取り、
二の重に焼き物と酢の物、
三の重に煮物。
二段重の場合は、
一の重に祝い肴と口取りを詰め、
二の重に煮物を並べる。
残りは好みで振り分ける。
五段重もあるけれど、
その5番目は神様に捧げるとか。
重詰めの基本は、
一つのお重の品数は奇数とする。
日本では奇数が「吉」だからだ。
ちなみに中国では偶数が吉とされる。
詰め方には形式がある。
格子模様の「市松」、
円形を4分の1ずつ交差させた「七宝」、
さらに「八方」「段取」「升詰」「隅取」など。
最後にお節に関連した俳句。
「食積」(くいつみ)はお節料理のお重のこと。
重詰や隅に残りし蛸の足
〈村山故郷〉
昨今はタコも高くなったけれど、
ユーモアのある一句。
「食ひ倒れ」てふ大阪の重詰は
〈河本 和〉
大阪はお節も食い倒れ。
最後に巨匠も。
食積のほかにいささか鍋の物
〈高浜虚子〉
わかる、わかる。
今年はおでんです。
おせち料理、意味を知りつつ、
食べたいものです。
でも今年のおとうさんは喪中で、
飾り立てたおせち料理はありません。
悪しからず。
(『猫の目博物誌』より by yuuki)