湯に入(いり)て我が身となるや年の暮
〈小林一茶〉
今年の疲れも、
ゆっくり湯に入るととれる。
わが身となる気がする。
大晦日である。
北海道新聞の巻頭コラム。
「卓上四季」
「1988年12月は、結果的に、
“昭和”で最後の歳末となった」
1989年1月7日に、
昭和天皇が崩御され、
昭和が終わった。
その年の暮れ。
「毎日伝えられる昭和天皇の病状は重く、
世間には自粛ムードが広がっていた。
半面、バブル経済は衰えず、
東京株式市場は大納会で
平均株価の終値が3万159円ちょうどと、
史上最高値を更新した」
私的なことで恐縮だが、
私は1989年1月1日付で、
㈱商業界の食品商業編集長に任命された。
昭和から平成へと変わる節目の時期。
しかしバブル経済の真っただ中だった。
それからちょうど30年。
「平成最後の今年の株価は、
押し詰まってからの乱高下の末に、
2万14円77銭で引けた」
ちょっと不思議な気もするけれど、
日経平均株価は、
30年間に約1万円下がった。
高度成長からバブルへの、
「例外時代」が崩壊して、
平成は、混迷する普通の時代になった。
株価が1万円下がった30年だった。
東京新聞巻頭コラム。
「筆洗」
「明治ハイカラ」「大正モダン」「昭和元禄」。
元号にはニックネームがある。
平成にどんな愛称が似合うか。
「とんと浮かばぬ」
「それも複雑な平成ゆえか」
そこでコラムニストは思い出す。
「”平成バブル”とはあまりにも陳腐だが、
はじけて消える泡やしゃぼん玉の
イメージが頭から離れぬ」
「高い経済成長は見込めぬ。
高齢化、人口減。
戦争はなく明日のコメにも困らぬ」
「それでも消えぬ先行きの不安は
しゃぼん玉がしぼんだ後、
次の道が見えぬという
心細さのせいかもしれぬ」
「平成はそういう決して明るくない
分岐点に立っていた気がする。
さらば平成三十年。
なんだかおまえが
いたわしい」
しかし流通をモニタリングしていると、
変化の方向はよくわかった。
レース型競争の時代から、
コンテスト型競争の時代へ。
マスマーケティングの時代から、
ポジショニングの時代へ。
そして今上天皇が述懐された。
「平成が戦争のない時代として
終わろうとしていることに、
心から安堵しています」
アメリカでは2001年に9・11があった。
日本では2011年に3・11が起こった。
それでも世界大戦は避けることができた。
だから平和産業の小売流通業は、
発展したし、次の展望をもった。
昨日の産経新聞巻頭コラム。
「産経抄」
吉田兼好の『徒然草』から、
「筆のしくじり話」を取り上げる。
おもしろい。
「雪の降る朝、
知人に用件のみをしたため
手紙を出したところ、
返事が来た。
雪に一言も触れぬ、
ひねくれ者の言うことを聞けましょうか」
「口をしき御心(みこころ)なり」。
――情けないお心ですねと、手厳しい。
兼好法師も自分が情けなかっただろう。
「雪の風情に、
筆が寄り道するくらいの
ゆとりはお持ちなさい」
「要点のみの無味乾燥の文面も、
季節の風物に触れた一筆を添えるだけで
気の利いた便りになる」
「慌ただしい年の瀬を迎え、
人ごとではない筆の粗相である」
しかしこれは商売に通じる。
用件のみ、要点のみの商売。
つまり価格だけの商売。
安さだけのマスの商売に、
季節の風物に触れた一点を添えるだけで、
気の利いた売場になる。
ウォルマートは、
そんな季節の風物を、
ことさらのように大切にする。
沖縄タイムス。
「大弦小弦」
「本土に出掛けると、
駅のエスカレーターで遭遇する。
急ぐ人のために
片側を空けるのが暗黙のルール。
ところが、立ち止まって乗る側に
押すな押すなの大行列ができている」
あるある。
「片側を空けるのが
効率的とも言い切れない」
一番いいのは、
2列とも立ち止まって利用する。
急ぐ人は階段を歩いてもらう。
私は歩く。
コラムニスト阿部岳さんの主張。
「弱者も移動しやすい手段として
登場したはずのエスカレーター。
いつの間にか、強者の論理が
支配していたのではないか」
「強者だけが
先を急ぎやすい仕組みから、
多様な全員が安心して
前に進める仕組みへ」
これがコンテスト型競争だ。
「駆け足でなくても、
立ち止まって乗るエスカレーターのように
ゆっくりでもいい」
これがファストフードに対する、
スローフードの考え方だ。
“Please Do Not Run”
ウィリアム・マクエルチュラン作。
平成は、そのことに、
気づかせてくれた時代だった。
悪い時代ではなかった。
しゃぼん玉のような時代でもなかった。
もちろん次の時代も、
依然としてマスは必要だし、
ファストも必須だ。
しかし同時に、
ポジショニング競争とスローな考えが、
どんどん広がっていくことを、
私たちは知らねばならない。
平成の30年間を振り返って、
つくづくとそう思う。
そして今年も、
いろいろなことがあった。
次の時代に向けて、
Go! Go! ポーズを、
取り続けた。
Amazon Goでポーズ。
万代知識商人大学でポーズ。
ディスカッションでポーズ。
ホノルルのワイキキビーチでポーズ。
富士を背景にゴルフコースでポーズ。
AI時代が来た。
講演もした。
ゴルフにも生涯で一番、打ち込んだ。
では2018年12月31日、大晦日。
結城義晴のブログ[毎日更新宣言]、
これにて終了。
これまでのご愛読を心から感謝したい。
〈結城義晴〉