堺屋太一さんが亡くなった。
2月8日午後8時19分。
多臓器不全。
83歳だった。
小説『団塊の世代』を世に出して、
このネーミングを国民に定着させた。
大阪万博のプロデューサー。
「本気のプロデューサー」が、
何をするにも必須であることを説いた。
私は「ゼロ戦化現象」という概念を、
よく使う。
技術者にまかせておくと、
モノは難しいこと、
精巧なことに突き進んでしまう。
あらゆる業界に起こる。
戦前の1940年ころ、
世界で最も性能がいい戦闘機は、
日本のゼロ戦だった。
スピードが速い、小回りが利く。
そのうえ耐久性がある。
ただしゼロ戦を乗りこなすには、
1000時間の訓練が必要だった。
それに対して、
ドイツのメッサーシュミットは、
300時間で乗りこなすことができた。
アメリカのグラマンは100時間だった。
戦争が進むにしたがって、
パイロットが戦死していくと、
日本にはゼロ戦を操縦する者が、
いなくなった。
技術者に任せておくと、
性能はいいものができるけれど、
どんどん複雑になる。
それによって、
大衆から離れていく。
2010年11月に直接、話を聞いた。
堺屋さんにはまだまだ、
これからの日本を、
見てほしかった。
さて、ニューヨーク・マンハッタン。
ホテルはミレニアム・ブロードウェイ。
28階の部屋の真下にタイムズスクエア。
ホテルは春節対応一色。
日本は建国記念の日。
こちらはまだ2月10日。
朝、7時から講義。
ロピアの中核を担うのがチーフ。
そのチーフ以上が参加しているが、
はじめてのアメリカ体験という人も多い。
そこでどこよりも、
わかりやすく、
かみ砕いて講義する。
テーマは、
好奇心・探求心、
行動力・実行力。
そして”Think, think, think!”
体験したら、
考えて考えて、考え抜け。
店舗視察の原則と基本をレクチャーし、
米国小売業の最先端の情報を整理した。
ロピアの店舗は、
部門チーフがカギを握る。
その彼ら、彼女らに向かって、
丁寧にわかりやすく、
2時間ほどの講義。
講義が終わると、
すぐに視察。
カラフルな段ボール陳列の売場。
クレンリネスは見違えるほど、
よくなった。
そして青果売場。
グロサリーディスカウントから、
生鮮もディスカウントの店へ。
もちろんアイテム数は絞り込んである。
肉に強いロピア。
どの店舗に行っても
ミート売場をじっくり観察。
そして議論する。
2リットルのコカ・コーラが
1ドル64セント。
この店は意外に安くない。
牛乳に至っては
1ガロン3ドル79セント。
競争状態によって、
売価設定を変える。
「8年連続バリューリーダー」。
つまりウォルマートよりも、
クローガーよりも、
一番安いと評価されていると、自慢げだ。
しかしこの地域にはクローガーはないし、
ウォルマートの店舗も少ない。
価格競争の緩い環境のなかで、
この店は、楽な商売をしている。
東海岸の6州に800店ほどを展開する、
リージョナルのコンビニチェーン。
全店の半数ほどに、
ガソリンスタンドを併設する。
地域に馴染んだコンビニだ。
スーパーマーケットの入口は、
ドームのようなアーチ形。
その両サイドの一丁目一番地で、
プロモーションアイテムを展開する。
そして島型のチーズ売場。
これも圧倒的な品揃えと買いやすさ。
奥壁面にミート売場。
ハムとチーズのデリカテッセン売場は、
いつも切りたてのハムを買い求める
顧客の行列がある。
その対面売場の隣では、
チーズとハムの切り立てアイテムを、
パッケージしてセルフサービス販売。
最近お目見えした売場だが、
対面とセルフを両にらみで展開するのが、
ウェグマンズだ。
中身が見えるように、
透明のジッパー袋で販売する。
これがいい。
広大なインストアベーカリー。
パンだけでなく、
マフィンやベーグル、
クッキー、ケーキなど
ベイクド商品を扱う。
コンシスタント・ロープライス。
一貫した低価格。
つまりウォルマートのEDLPと同じ戦略。
必需商品は売価を変えずに、
低価格で販売し続ける。
天井付近に敷かれたレールの上を、
電車が走る。
これをロピアが取り入れている。
店舗奥に、ファミリーパックのコーナー。
大容量商品を低価格で販売する。
コストコ対策の一環だ。
日曜の昼のピークタイム。
忙しい中、ケニーさんが話してくれた。
対抗するショップライト。
このニューヨーク周辺で、
トップシェアのボランタリーチェーン。
300店ほどの協同組合だが、
この店はその旗艦店。
店全体、あちこちで、
バレンタインのプロモーション。
入り口では新鮮なイチゴを、
チョコレートでコーティングした菓子。
どんどん試食させる。
手づくりのクッキーやケーキなど、
バレンタイン商品を重点販売。
ちなみに肉売場でも、
ハート形の容器にステーキを入れて販売。
この店はそれぞれの部門やコーナーを、
ショップ形式で展開している。
デリカテッセンの「ボアーズヘッド」。
超有名なブランドのショップ。
切り立てハムを提供する。
市場感のある生鮮ゾーンを抜けると、
店舗奥には、加工食品、冷凍食品、
HBCや書籍などの非食品ゾーン。
この長いゴンドラの陳列線が、
この店の特長だ。
レジの奥に、
宅配サービスのための、
ピックアップ商品が並んでいる。
このバンで自宅に届ける。
常時4台が稼働している。
1日100件くらいの注文がある。
アメリカでは宅配サービスが、
急速に伸びていて、
ショップライトもそれに対応する。
ニュージャージー州を後に、
マンハッタンに戻る。
トップセラーアイテムばかりを集めた、
アマゾンのリアル店舗。
カテゴリー別に商品が展示され、
いわばショールームのようなもの。
この店の評価を聞くマシン。
昨年9月のオープン以来、連日、顧客でにぎわう。
当然、ネットでも買える商品ばかりだが、
それでも人気のリアル店舗となっている。
2004年2月に、
マンハッタン最大店舗として、
オープンさせた。
マンハッタンで、
ホールフーズの名を
知らしめる契機になった店舗。
現在も繁盛店だ。
さらにデアリーや冷凍食品、
加工食品がコンパクトに配されている。
1階はコンビニエンスな即食のデリ売場と、
銀行方式のチェックスタンド。
店を1周するほどのレジ待ちの行列。
プライベートブランドの
「チャールズ・ショー」を
目いっぱい売り込む。
世界一売れているワインだ。
ニューヨーク州はグロサリーと酒は、
別の店で売らなければならない。
しかし独立したワインショップとしても、
トレーダー・ジョーは、
極めて強いインパクトを持つ。
コンセプトは、
「ヨーロッパの屋外市場」。
プレゼンテーションに凝る。
天井から隙間なく吊り下げられたかご。
店内の壁も天井も商品と装飾で、
密度高く埋め尽くす。
シーフードの対面コーナー。
3店舗だけの店だが
根強い固定ファンを持つ。
ただし、客層の年齢層は高い。
いわゆる伝統的顧客の「ラガード」に、
支えられた店だ。
ホールフーズやトレーダー・ジョーが、
マンハッタンに入ってきて、
既存のスーパーマーケットは、
決定的な影響を受けた。
今後どれだけ踏ん張っていけるか。
ガーデン・オブ・エデンの、
強みとは何か。
それが問われている。
ディナーは、
三ツ星のイタリアンレストラン。
しかし店名はPEASANT(ペザント)。
「百姓」という意味。
シックな店内で、
おいしいイタリアンを味わい、
高木勇輔㈱ロピア代表取締役と、
ワインボトルを空け続けた。
そうして2日目の夜は更けていった。
どんな会社にもどんな組織にも、
「本気のプロデューサー」は必須だ。
ウェグマンズにもホールフーズにも、
トレーダー・ジョーにもアルディにも。
ショップライトにもエデンの園にも。
もちろんロピアにも。
堺屋太一さんの遺言のような気がする。
(つづきます)
〈結城義晴〉