西日本新聞の一面コラム、
「春秋」
「日と青を組み合わせた”晴”という字は、
輝く太陽と青く澄んだ空を思わせる」
結城義晴の「晴」でもある。
「イメージにぴったりの字だが、
中国で漢字が生まれたころ、
この字はなかったそうだ」
「当時は”霽(せい)”という字が使われた。
雨かんむりに齊(斉の旧字)」
「斉にさんずいを付ければ、
済む=終わるの意味になり、
”霽(は)れる”は
雨が降り終わることを表した」
そうか。
雨が「済」むから、
「晴」れるなのか。
西日本新聞は、
福岡を中心にした九州北部の新聞で、
今回の大雨被害のエリアを担当する。
「篠突く雨が九州北部を襲った。
“数十年に1度”の災害が迫る時に
出される特別警報が、
北部3県の広い範囲で発表された」
「観測史上最大の豪雨。文字通り、
束ねた篠竹が落ちてくるような
激しい降り方だった」
現地新聞だけに、
表現に臨場感がある。
「平野が広がる佐賀県内では、
川からあふれた水が
田畑や市街地を覆った。
辺り一面、濁った海のように」
東日本大震災のときの、
東北の各地を思い浮かべる。
特別警報は解除されても、
上空には雨雲が居座る。
月が変われば台風の季節。
「気は晴れないが、
大雨への警戒は
“済む”ことなく続けたい」
お見舞い申し上げたい。
こちらは全国紙の朝日新聞、
「折々のことば」第1566回。
A happy landing on the earth
Although the earth is full of problems.
(作家・小田実)
「ようこそ地球へ――ここは、
問題だらけではあるけれどね」。
〈Amazon Kindle「生誕85周年 小田実フェア」ポスターより〉
作家は娘が誕生した日、
日記に上記のように記した。
妻の玄順恵(ヒョンスンヒェ)の回想録、
『トラブゾンの猫』の終わりに、
小田実の創作ノートの最後の文を添えた。
「世界は世直しを必要としている」
2007年7月30日に、
小田実は亡くなってしまったが、
今も、変わらない。
「世界は世直しを必要としている」
編著者の鷲田清一さん。
「作家が身を投じた市民運動には、
つねに地べたを這(は)いつつ
宇宙を見上げる、
虫瞰図の眼があった」
虫瞰図は「ちゅうかんず」と呼んで、
これこそ「虫の目」だ。
「ベトナムに平和を! 市民連合」
略称「ベ平連」は、小田実がつくった。
ベ平連は、
地べたを這いずった。
そして宇宙を見ていた。
小田実は、
ダイエー創業者の中内功と、
親しい友人だった。
中内も地べたを這いつつ、
宇宙を見ていた。
それが中内のチェーンストアだった。
ようこそ地球へ。
ようこそ日本へ。
問題だらけではあるけどね。
虫の目で、
その問題を見ていこうよ。
一緒にね。
日経新聞のスポーツ欄。
意外に深い考察があって、
私は大好きだ。
「サッカー人として」は、
“カズ”こと三浦知良の連載。
今日のタイトルは、
「あなたは理想主義者?」
「日本代表がブラジル代表に
正々堂々と力と力の勝負を挑めば、
1-5もあり得る」
実力差はカズも認める。
「だからまず失点を抑え、
耐えて勝機をうかがう作戦が
練られもする」
そしてカズは言う。
「これも一つの“正々堂々”」
「現実と理想の間で自分がどうあるべきか、
見定めていくのがプロの生きる道なんだ」
そしてカズの鋭い批評。
「日本スポーツ界は現実主義者より、
理想主義者が多いんじゃないかな。
指導者も結果ありきで
物事をあまり語りたがらないような」
松井秀喜の甲子園の5連続敬遠。
「正々堂々と戦え」と非難轟轟。
しかし、カズ。
「でも、これはルールにのっとって
堂々とプレーしているし、
やましくもない」
「柔道なら一本勝ち、
大相撲の横綱ならば
相手を堂々と受け止め、
立ち合いで変化は慎むべし」
「似た美学が、
スポーツの根っこにあって、
現実をみたいというより
“見たい現実”を見たい
というのもあるんだろうね」
昨年のFIFAワールドカップの日本代表。
1次リーグ最終戦の終盤で、
勝ちにいくことを放棄した。
あのときも、
「みっともない」「それでうれしいか」
と物議を醸した。
「これも理想主義的で、
悪いとはいわない。
僕もサッカーは美しくあるべし
と思っている。
でも美しいだけじゃないからこそ、
多様なあり方、戦術が生まれる」
三浦知良の戦術と美学。
カズの現実と理想。
その両方。
「学校の先生と、
受験に受からせる先生は違う。
教育の理想と受験の現実は違うから」
「育成で優れた実績があっても
プロの監督業では
結果を残せない指導者もいる」
プロスポーツは、
商売と似ている。
チェーンストア経営とは酷似している。
現実と理想のはざまにあるからだ。
理想は極めて大事だ。
それなくして進化はない。
しかし理想だけで、
現実が伴わないと、
商売は失敗する。
なぜか。
商売は問題だらけではあるからだ。
しかし商売にも、
チェーンストアにも、
理想主義者が驚くほど多い。
問題だらけの現状は、
小田実の「虫瞰図の眼」で乗り越える。
地べたを這いつつ、
宇宙を見る。
これをサム・ウォルトンは言った。
「Retail is Detail」
結城義「晴」は訳した。
「小売りの神は細部に宿る」
〈結城義「晴」〉