第9回ワールドカップラグビー。
4つのグルーピング。
そのプールA。
日本、アイルランド、
スコットランド、サモア、
そしてロシア。
日本はロシアに勝ち、
アイルランドに奇跡を起こし、
第3戦はサモア。
マッチ前のデレゲーション。
リーチマイケルを先頭に、
肩に手をかけて行進。
これ、日本らしくて、
とてもいい。
君が代斉唱。
サモアのWar Cry。
「闘いの雄叫び」
キックオフ直前の「儀式」。
もっとも著名なのが、
オールブラックスの「ハカ」。
もちろんニュージーランド代表。
世界ランキング第1位のチームのハカは、
強いチームだからこそ、
なんというか威厳があって、
効力もある。
大相撲の横綱の土俵入りと同じだ。
100年以上も前に、
オールブラックスが始めた。
先住民族マオリは、
自らを鼓舞するために、
戦いの前に踊った。
それが取り入れられた。
現在は、冠婚葬祭で行われる。
学校の式典でも披露される。
War Cryをするのはほかに3カ国。
トンガ代表は「シピタウ」。
フィジー代表は「シビ」。
そしてサモア代表は、
「シバタウ」。
ラグビーとサッカーの違いは、
この精神性や様式美にある。
竹中郁(たけなか いく)
1904年4月1日に生まれ、
1982年3月7日に没した。
明治生まれの詩人。
北原白秋に師事し、
モダニズムポエムを書く。
1932年刊行の詩集『象牙海岸』に、
シネポエム「ラグビイ」がある。
「ラグビイ」
1 寄せてくる波と泡とその美しい反射と
2 帽子の海
3 Kick off! 開始だ 靴の裏には鋲がある
4 水と空気とに溶けてゆくボールよ 楕円形よ 石鹸の悲しみよ
5 《あっ どこへ行きやがつた》
6 脚 ストッキングにつつまれた脚が工場を夢みてゐる
神戸製鋼の工場だろうか。
青年たちがラグビーの試合をしている。
詩人はそれを描く。
8 俯向いてゐる青年 考へてゐる青年 額に汗を浮かべてゐる青年 叫んでいる青年 青年 青年 青年はあらゆる情熱の雨の中にゐる 喜ぶ青年 日の当たつてゐる青年
9 美しい青年の歯
青年たちの観察と描写。
そして工場と労働者。
10 心臓が動力する 心臓の午後三時 心臓は工場につらなつてゐる 飛んでゐるピストン
11 昇る圧力計
12 疲労する労働者 鼻孔運動
ラグビイの花はタックルだ。
13 タックル 横から大きな手だ 五本の指の間から、苔のやうな人間風景
14 人間を人間にまで呼び戻すのは旗なのです 旗の振幅 《忘れてゐた世界が再び眼前に現れる》 三角なりの旗 悪の旗
15 工場の気笛 白い蒸気 白い蒸気の噴出、花となる
16 見えぬ脚に踏みつけられて、起きつづける草の感情 中に起きられない草 風、日に遠い風のふく地面
17 ドリブル六秒 ころがるボール 雨となるベルトの廻転
汗をふいて溜息する青年 歪んでゐる青年 《ボールは海が見たいのです》
18 伸び上る青年 松の尖つた枝々
密集のスクラムからトライへ。
19 密集! 機械の胎内 がつちりと喰ひ合つてゆく歯車
20 ぐつたりとする青年 機械の中へ食はれてゆく青年 深い深い睡眠に落ちこむやうに
21 何を蹴つてゐのだろう
22 胴から下ばかりの青年
23 《ああ僕は自分の首を蹴つてゐる》
24 Try!
番号が付けられたシネポエム。
30まで続いて、雨が降って終わる。
ワールドカップラグビーも、
この工場での闘いと変わらない。
Kick off。
タックル。
密集、スクラム。
Try!
俯向いてゐる青年
考へてゐる青年
額に汗を浮かべてゐる青年
叫んでいる青年
青年
青年
青年はあらゆる情熱の雨の中にゐる
喜ぶ青年
日の当たつてゐる青年
日本対サモア戦は、
38対19。
ペナルティキックでリードし、
トライを決めて勝ち越した。
そのトライも、
フォワードからバックスへつないでの、
見事なランニングトライ。
ドライビングモールトライ。
フォワードの突撃トライ。
ラストプレーでは、
粘りに粘ってスクラムからのトライ。
4トライのボーナスポイント獲得。
堂々の、日本らしい勝利だった。
お見事!!
あとはスコットランド戦。
最後に再び竹中郁。
詩集『そのほか』から「足どり」。
足どり
見知らぬ人の
会釈をうけて
こちらも丁寧に
会釈をかえした
二人のあいだを
ここちよい風がふいた
二人は正反対の方向へ
あるいていった
地球を一廻りして
また出会うつもりの足どりだった
サモアのラガーとジャパンのラガー。
地球を一廻りして、
また出会おう。
ありがとう。
〈結城義晴〉