台風19号。
記録的な豪雨を残して、去った。
千曲川、阿武隈川、利根川、
21河川24カ所が決壊した。
写真は阿武隈川流域の丸森町。
日本列島が「川の国」であることを知らされた。
ヨーロッパのライン川やドナウ川、
北アメリカのミシシッピ川や、
南アメリカのアマゾン川。
これら大河川は横に流れる。
それに比べて日本の河川は、
縦に流れる。
だから上流で大雨が降ると、
下流で決壊する。
被災された皆さんには、
心からお見舞い申し上げます。
亡くなられた方々のご冥福を祈りたい。
その一方で、
感動のニュース。
2019ラグビーワールドカップ。
日本代表がスコットランドを破って、
プールAを全勝の首位で通過し、
念願のベスト8に進んだ。
ゲームが終わって、
勝利した選手やヘッドコーチが、
もれなく台風被害のことをコメントした。
スポーツとはどんなものなのか。
それを彼ら自身が一番感じ取っただろうし、
応援したり観戦したりしていた私たちも、
それを知った。
岩手県釜石市。
釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアム。
台風の影響でラグビーの試合は中止となった。
そのカナダ代表は被災した釜石市内で、
泥かきや家財の運び出しを手伝った。
朝日新聞の報道。
カナダ代表のコナー・トレーノー選手。
「試合ができなかったことは残念だけど、
釜石の人を助けることができてよかった。
今回の経験で災害の時に
家族や友人を守る大切さを
思い出すことができた」
ルーカス・ランボール選手。
「試合が中止になって
プレーで動かなかった分、
ここでしっかり働くよ」
横浜で行われた日本のゲーム。
前半は21対7、
後半は7対14.
28対21で逃げ切った。
それでも実力でスコットランドを圧倒した。
4年前の南アフリカ戦の勝利や、
今回のアイルランド戦の勝ちは、
奇跡やマジックといった印象もあった。
しかし今日のスコットランド戦は、
堂々の真っ向勝負での勝利で、
もうティア1のレベルにあることが証明された。
ティア1とはラグビーのトップクラス10カ国。
北半球のヨーロッパの6カ国。
イングランド、ウェールズ、スコットランド、
アイルランド、フランス、イタリア。
そして南半球の4カ国。
オーストラリア、ニュージーランド、
南アフリカ、アルゼンチン。
日本はもう、
このクラスには入っている。
ゲーム開始後、
前半の6分に7点を先取された。
しかしその後の17分に、
福岡堅樹から松島幸太郎へと、
快速ウィング2人がつないで、
見事なトライ。
それからのトライ&ゴールが素晴らしかった。
いつもスクラムから安定したボールが出る。
フォワードがボールをつないで、
25分にゴール下にトライ。
タックルを受けながら、
アイコンタクトして、
味方につなぐ。
オフロードパス。
そしてフォワード1列目の稲垣啓太が、
初めてのトライ。
「トライってこんな気分なんだ」
稲垣は述懐した。
そのあとも39分、
キックを追って福岡が快走。
相手のウィングと競い合って、
抜け出す。
そして見事なトライ。
いつもは冷静な福岡が、
自分で呆然としたほどのトライだった。
後半に入って2分、
福岡がインターセプトしてトライ。
その後、スコットランドの猛攻に、
2つのトライ&ゴールを奪われて、
7点差となった。
ただし、7点差の負けでも、
ベスト8には進めるという、
心理的な余裕はあった。
最後はスクラム。
びくともしない世界最強レベルのスクラム。
ボールをキープして、
ノーサイド。
ゲーム後の福岡は興奮して饒舌だった。
プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた福岡は、
テニスの大坂なおみ選手から、
トロフィーを贈られて、祝福された。
最後は全員で輪になって、
「ビクトリーロード」を斉唱。
ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、
初めに台風被害に対して、
丁寧なコメントをして、
それからインタビューに応じた。
フィフティーンは間違いなく、
命をかけて闘っていた。
それが誰の目にもよくわかった。
スポーツはいったい、
何のためにあるのか。
彼らは何のために、
あんなに激しく闘うのか。
その「何のために」を示してくれた、
台風19号の後のラグビーゲームだった。
大いに感謝したい気持ちになった。
〈結城義晴〉