「客」の存在。
新型コロナウィルス禍で、
スポーツの動向を見ていても、
あらためて考えさせられる。
大相撲春場所。
無観客で初日の取組を行った。
相撲の試合のことを、
「取組」といい、
さらに「割」と呼ぶ。
しかし観客がいない「割」は
「興行」とは呼べない。
興行とは、
「入場料をとって客に見物させること」
今場所は、無観客。
やっぱり客がいないと、
華やいだ雰囲気がない。
そのうえ相撲は、
接触するスポーツだから、
取組の中から、
1人でも感染者が出たら打ち切り。
相撲協会が自ら判断して、
そう決めた。
力士は約650人。
それに親方、行事、呼出、
さらに髪を結う床山などが加わる。
場所への力士の移動は、
公共交通機関を避けて、
自動車を利用した。
外部との接触を減らすためだ。
日本相撲協会の八角理事長。
元横綱北勝海。
幕内全力士42名を勢揃いさせて、
異例の長い挨拶をした。
八角理事長のスピーチは良かった。
「公益財団法人日本相撲協会は、
社会全体でコロナウイルス感染症の拡大を
防いでいる状況を勘案し、
またなにより、
大相撲を応援してくださる
多くのファンの皆様に、
ご迷惑をかけることは決してできないと考え
大相撲三月場所を
無観客で開催させて頂く事となりました」
「このようなお客様のいない本場所となり、
力士にとっても、気持ちを整えるのが
難しい非常に厳しい土俵となりますが、
それでも全力士は、
全国各地で応援してくださっている
郷土の皆様やファンの方々の
歓声や声援を心に感じ、
精いっぱいの土俵を務め、
テレビでご観戦の皆様の
ご期待にお応えするものと存じます」
「古来から力士の四股は、
邪悪なものを
土の下に押し込む力があると
言われてきました。
また、横綱の土俵入りは
五穀豊穣と世の中の平安を
祈願するために行われてきました」
「力士の体は、
健康な体の象徴だともいわれます。
床山が髪を結い、
呼出が拍子木を打ち、
行司が土俵をさばき、
そして、力士が四股を踏む。
この一連の所作が、
人々に感動を与えると同時に、
大地を鎮め、邪悪なものを
押さえこむのだと信じられてきました」
「こういった大相撲のもつ力が、
日本はもちろん世界中の方々に
勇気や感動を与え、世の中に
平安を呼び戻すことができるよう、
協会員一同、一丸となり、15日間、
全力で努力する所存でございます。
何とぞ千秋楽まで、
温かいご声援を賜りますよう、
お願い申し上げごあいさつと致します」
開催の前には、
神主が土俵を清めた。
最後に結びの一番のあとには、
将豊竜による弓取式が行われた。
万事、いつもの本場所通り。
しかし観客はいない。
NHKテレビの向こうで、
相撲の進行を見つめるだけ。
呼出や行事の声、
力士が回しを叩く音、
そしてぶつかり合いと息遣い。
それらが館内に響き渡った。
しかし日本相撲協会は、
10億円以上の損失。
15日間分の前売り券は完売していた。
それらは払い戻しされる。
ただしNHKの放映権料は4~5億円。
こちらは何とか確保。
日本相撲協会広報部長の芝田山親方。
元横綱大乃国の言葉。
「首まで土に埋まったような状況だけど、
頑張るしかない」
大乃国は頭のいい親方となっていて、
表現が的確だ。
「首まで埋まって状態」は、
日本全体を意味している。
大相撲だけではない。
プロ野球。
「野球の夢。プロの誇り。」を謳う
オープン戦は無観客試合。
昨2019年3月のオープン戦は、
88試合で171万人を集客。
チケット収入は約50億円だった。
それがない。
Jリーグは、
すでに開幕カード20試合を終えた。
開幕試合では応援に制限が加えられた。
応援歌を歌うのは禁止。
サポーター同士が肩を組むのも禁止。
そして安倍晋三首相の「自粛要請」で、
3月15日までの計94試合を延期した。
スーパーラグビー。
日本チームはサンウルブズ。
3月に日本国内で2試合を予定していた。
こちらは開催地をオーストラリアに変更。
チケット収入は合計1億円。
その収入がなくなった。
Bリーグは、
プロバスケットボール。
99試合が延期された。
そのチケット収入60億円。
女子プロゴルフツアーは、
開幕戦と第2戦を中止。
開幕戦は「ダイキンオーキッドレディス」、
第2戦は「明治安田生命レディス」。
3戦目、4戦目も開催は不透明。
3戦は「Tポイント×ENEOS ゴルフトーナメント」
4戦は「アクサレディスゴルフトーナメント」
人気も落ち目で試合数が少ない男子は、
4月開催のため、今のところ高みの見物。
そして東京五輪とパラリンピック。
「客」がいないと「興行」にならない。
しかし大相撲の「無観客取組」を見て、
無心のスポーツマインドに感動した。
子どものころの相撲、
新弟子のころの相撲、
何より稽古場の相撲。
客はいないけれど、
そこに喜びや苦しみがある。
楽しさもある。
相撲を取る意義、醍醐味。
野球もサッカーもラグビーも。
その意義や醍醐味が大切だ。
顧客は映像でそれを見る。
商売も同じようになるか。
顧客は映像で商品や売り方を見る。
食べ方、使い方、着方も映像で見て、
ネットで買うようになる。
「無観客商売」
「モノからコトへ」といわれるが、
しかし商売にはモノの「客」は残る。
「コト」は映像やネットで提供され、
「モノ」だけが物流する。
だから画像、映像と物流が大事。
それでも
商売の意義、
商売の醍醐味。
それを商人自身が、
知っていること、
感じていること。
この新型肺炎騒動が収まるとしたら、
私たちはもっと、
「客」を大切にするようになる。
これは間違いない。
〈結城義晴〉