心に響かない話しぶりだった。
安倍晋三首相、
緊急事態宣言を39県で解除。
側近か官僚が書いた文章を、
立派な演説のように語って見せる。
久しぶりにアベノマスクを外して、
床屋に行ってないのだろうか、
髪が伸びて白髪が目立った。
これも演出かもしれないが。
COVID-19の解決に向けて、
水を差すつもりは全くないし、
特に支持する政党もない。
いつも私は、是々非々の考え方だ。
が、残念ながら、
今日のテレビ画面の首相の語り掛けは、
ひどく薄っぺらに映った。
安倍首相の自民党総裁任期は、
来2021年9月までだ。
衆議院議員の任期は21年10月まで。
従来の安倍晋三カレンダーでは、
今夏の東京オリンピックで、
国内が高揚感に沸きに沸いて、
それが見事な花道となるはずだった。
あるいは今秋の総裁選で、
ことによったら安倍総裁4選まで、
視野に入れていたかもしれない。
自民党の党則では本来、
総裁任期は2期6年だったが、
これを自ら変えて、
現在3期9年になっている。
それをさらに、
4期12年にするという構想だ。
もちろんそこまで長引かせるまでもなく、
オリンピック景気の中で、
次の新総裁にバトンタッチして、
気分よく院政を敷くというストーリーもあった。
ところがこのコロナ禍。
オリンピックは一応、
1年延びたから、
今秋の総裁選挙もないし、
この世界的なコロナ問題のなか、
衆議院総選挙も来年になるだろう。
来年でさえも五輪は開催できないという説もある。
そんなことをつらつら考えながら、
39県の緊急事態宣言解除の映像を見ていた。
私は思う。
今回のコロナ対応の成果は、
日本国民の勤勉性と、
誠実さ、素直さが、
成し遂げたものだ。
医療従事者をはじめ、
コロナと最前線で闘う人々、
生活のインフラを支える人々、
そして感染拡大抑制に協力する大多数の人々。
その努力の結晶だ。
今日の最新の集計では、
世界全体の感染確認者数434 万7015人、
死亡者数29万7197人。
死亡した人が最も多いのは、
アメリカ合衆国8万4763人。
続いて、
イギリス3万3186人、
イタリア3万1106人、
フランス2万7074人、
スペイン2万7321人。
ブラジル1万3240人。
ベルギー8843人、
ドイツ7861人。
日本は696人。
桁が違う。
人の死を数字の羅列で論じて誠に恐縮だが、
これこそ立派な日本国民の成果だ。
さらに現時点で、
小売業ではスーパーマーケットが、
例外なく絶好調だが、
これも経営者や幹部の功績ではない。
「事件は、
会議室で起きてるんじゃない!
現場で起きてるんだ!!」
1998年の「踊る大捜査線THE MOVIE」の、
織田裕二演じる青島刑事の名セリフ。
現場の支えがあって、
コロナに対する防御が可能となっている。
安倍首相の会見からは、
その認識が感じられなかった。
私の強い印象だから、
ほかの意見があってもいい。
記者会見の応答の中で、
二番目に質問したジャーナリストは、
「検察庁法改正案」を、
なぜこのコロナ禍の渦中で、
通そうとするのかと聞いた。
安倍首相はこの質問にも、
まともに返答しなかった。
朝日新聞の記事。
「総長も黒川検事長も”辞職せよ”」
堀田力(つとむ)さんが発言している。
東京地検特捜部検事として、
ロッキード事件を捜査した。
「検察幹部を政府の裁量で
定年延長させる真の狙いは、
与党の政治家の不正を
追及させないため以外に
考えられません」
黒川弘務検事長の定年延長に関して、
「黒川君は優秀な検察官ですが、
黒川君でなければ
適切な指揮ができないような事件は
ありえません」
「検察庁は行政組織の一つとして
内閣の下にあり、
裁判所のように制度的に独立していない。
一方で、政治家がからむ疑惑を解明する
重い責務を国民に対して担っています。
与党と対立せざるを得ない関係なのです」
検察庁内に存在した人間として、
実感のこもった認識だ。
「その葛藤が最も顕著に現れているのが、
法相による”指揮権”の仕組みです」
検察庁法14条。
「法務大臣は、規定する検察官の事務に関し、
検察官を一般に指揮監督することができる。
但し、個々の事件の取調又は処分については、
検事総長のみを指揮することができる」
しかし堀田さん。
「法相が不当な指揮権を発動したら、
総長はやめるよう説得する、
義務があります。
応じなければ、
総長は公表して世論に訴えるか、
辞職して指揮が及ばないように
すべきなのです」
「組織のトップたる総長や検事長には
政治の不当な圧力に
対抗できる胆力が求められ、
その人事が
政治家の判断にかかるようなことは
あってはならないのです」
「だからこそ、今回の
幹部の定年延長の規定は削除すべきです」
堀田さんは後輩たちに厳しく発言する。
「政治による不当な定年延長を受け入れた
黒川君の責任は大きいし、
それを認めた稲田伸夫・現総長も
検察への国民の信頼を損なった責任がある」
「2人とは親しいですが、
それでも言わざるを得ない。
自ら辞職すべきです」
「そして、仮に改正法が成立しても
“政府から定年延長を持ちかけられても
今後、検察はそれを受けない”
くらいの宣言をする」
「それによって検察の原点である
公正中立を守り、
国民の信頼を回復するのに
貢献してほしいと願います」
この緊急事態宣言解除の中で、
「検察庁法改正案」を通すのはおかしい。
事件は現場で起きている。
最後に朝日新聞「折々のことば」
第1815回。
発症者二桁に減り
良いほうのニュースに
カウントされる人たち
(俵万智 「短歌研究」5月号〈280歌人新作作品集〉から)
編著者の鷲田清一さん。
「生存ということがむきだしになる時、
人にとって日々の糧は、
あるか、ないかである。
死も同じように、
本人どころか家族にとっても、
あるか、ないかである」
このコロナ禍。
「あるか、ないか」が問題だ。
すなわち現場の問題である。
「誰かの死は一つの死として、
別の誰かの死と
比較も計量も交換もできない」
御意。
「が、人は知らぬまに
そういう生の地表を立ち去り、
死を上空から数える側に回っている」
安倍晋三の声や顔つきが、
死を上空から数える側にあった。
私もそれを感じ取った。
〈結城義晴〉