藤井聡太七段。
17歳。
史上最年少のタイトル挑戦者に決定。
凄い。実に。
将棋界もコロナ禍で、
対局を自粛していた。
それが6月1日から解除になって、
予定変更で過密(?)対局が組まれた。
そんななか。
藤井は第91期棋聖戦の挑戦者決定戦で、
永瀬拓矢二冠を破って、
初のタイトル挑戦を決めた。
17歳10カ月20日での挑戦者。
数多の天才たちが挑戦してきたが、
そのなかでももう、
破られることがないだろう快挙だ。
プロ将棋界には今、八大タイトルがある。
永瀬拓矢は現在、
王座と叡王のタイトルをもつ27歳。
永瀬もまた天才の一人だが、
藤井は実に見事な差し回しで、
相掛かりの戦型から、
わずか100手で、
永瀬に「負けました」と、
投了させた。
これまでは、
早熟の天才・屋敷伸之九段が、
17歳10カ月24日で棋聖戦に挑戦して、
これが羽生善治を凌ぐ最年少記録だった。
「お化け屋敷」とあだ名された屋敷九段も、
もう48歳。
31年ぶりの記録更新。
その屋敷の前の記録は、
現在、49歳の羽生が持っていた。
藤井聡太しかできないと思われる、
凄いことをやってのけた。
そのすごさは、
第1に、棋聖戦挑戦者までの道のり。
全棋士が参加するトーナメント戦で、
シードなしの一番下の予選から、
連勝に次ぐ連勝で9連勝して、
挑戦者決定戦に登りあがり、
そのうえで決勝の激闘を制した。
羽生も屋敷も、
現在、竜王位を保持する豊島将之名人(30歳)も、
並みいる天才たちすべてが敗退した。
残るのは、
棋聖位のタイトルホルダー、
渡辺明だけ。
これまた超天才の36歳。
現在、棋王と王将のタイトルを保持し、
三冠。
藤井の凄さの第2は、
今日の挑戦者決定戦の指し手の冴えだ。
私はアベマTVで朝から1日中、
仕事しながら一手一手を見ていた。
2人のプロ棋士が解説に当たる。
その二人が、
序盤から「凄い、すごい」を連発。
藤井と永瀬が互いに、
予想できない手を連発した。
これも強豪の飯島栄治七段(40歳)は、
「こんな名局を解説させていただいて、
光栄でした」
私は日本将棋連盟から、
アマ四段の免状を貰う資格をもつ。
強くはないが少しはわかる。
その素人の私が見ても、
実に奥の深い、読みの入った指し手が、
次々に繰り出されて、
心から感動した。
いや~、いいものを見せてもらった。
この棋譜は高い芸術性を有している。
藤井聡太の最年少挑戦者対局を、
リアルタイムで体験できた。
まるでラグビー・ジャパンが、
南アフリカに勝った瞬間のような。
タイガー・ウッズが、
復活勝利した時のような。
女子プロの渋野日向子が、
全英オープンに優勝した瞬間のような。
それを共有させてもらったような、
得難い感動だった。
そして第3は、
藤井聡太の性格の良さだ。
素直で、謙虚で、
それでいて勤勉で、
真摯だ。
こういった勝負事の超天才は、
どうやら底抜けに、
性格が良くなくてはいけないらしい。
羽生善治も、
何とも言えないほど、
いい人物だ。
並の天才の八段、九段、
あるいはタイトルホルダーの中には、
「こいつはいけない」と、
思わせる者がいたりするが、
超のつく天才は、
例外なく人柄がいい。
それがまた、
大きな感動をもたらす。
いい商人も、
こんないい性格でなければいけない。
藤井聡太を見ていて、
そう思う。
藤井聡太と、
同じ時代を生きていて、
幸せだ。
落語家の古今亭志ん朝は、
残念ながら早世してしまった。
しかし志ん朝と同時代を生きたことは、
私にとってこの上ない幸せだった。
藤井聡太は、
そんな感慨を抱かせてくれる。
もちろん升田幸三も、
大好きな棋士だった。
大山康晴も化け物級の大棋士だったし、
米長邦雄もユニークな天才だった。
羽生善治にももちろん、
何度も感動させられた。
しかし藤井聡太は、
それらを超えるものだ。
世界的なコロナパンデミックの今、
藤井の快挙はことさらに、
深いふかい感動を呼ぶ。
対局終了後、藤井は淡々と語った。
「挑戦することができて
うれしく思っています。
五番勝負がすぐ始まるので
しっかり準備したいとおもいます」
「意識していなかったけれど、
そういう形になってよかったと思います」
実に堂々としているが、
ふつうの17歳の高校生らしくもある。
渡辺明棋聖との五番勝負は、
もう8日に開幕する。
万が一にも、
藤井が棋聖を奪取すれば、
タイトル獲得の史上最年少記録が、
更新される。
もう、今日は、
これだけ。
藤井聡太みたいな、
底抜けにいい性格の商人。
もっともっと登場してほしい。
天才商人、
超天才商人、
もっともっと出てこい。
ありがとう。
〈結城義晴〉