家を出て、
最寄りの駅のホームに立ったら、
スマホを忘れたことに気づいた。
取りに戻る時間もないし、
電話連絡しようにもその道具がない。
駅のホームには公衆電話がない。
しかたないと思った。
しかし行先までのルートと時間を、
あらためて確認しようと思ったら、
それもできない。
いつものように電車の中で、
スマホの新聞を読もうとしたら、
それもできない。
メールもできない。
写真も撮れない。
録音もできないし、
録画もできない。
取材や編集の仕事にならない。
日課の日々の詰将棋4題でもやって、
時間をつぶそうとしても、
それもできない。
何か調べ事をしようと思っても、
わざわざパソコンを出さねばならない。
私の携帯電話はiPhoneだが、
この道具に頼り切っていた。
いつからなのだろうと考える。
今回のCOVID-19禍で、
いつからなのだろうと、
振り返ることが多かった。
今日は㈱True Data株主総会。
第20回定時株主総会。
創業してから20年を経過する。
もと元の社名は、
カスタマー・コミュニケーションズ㈱。
考えてみると私はこの会社に、
12年も関わっていることになる。
㈱商業界の代表取締役社長を退任して、
翌年に非常勤取締役として、
お招きいただいた。
それからの12年間でも、
ビッグデータマーケティングは、
産業社会の主流となった。
株主総会の場所は、
東京・浜松町の貿易センタービル。
カンファレンスセンター。
コロナ禍で株主の参加も少なく、
取締役も監査役も、
全員が総会会場に参列することもなく、
略式で総会は終わった。
その後、役員会。
もう21期がスタートしているが、
コロナの影響も少なくて、
トランスフォーメーションに取り組む。
困難なことはいつでも、
私たちに降りかかってくる。
頑張ろう。
その後、昨日と同じ、
コンサルティングへ。
今日は近畿地区のゼネラルマネジャー。
さて、柳井正さん。
㈱ファーストリテイリング会長兼社長。
京都大学に総額100億円の寄付をする。
京大はこの資金をもとに、
「柳井基金」を設立。
本庶佑特別教授のがん免疫研究。
山中伸弥教授のiPS細胞実用化研究。
柳井基金から支援がなされる。
お二人ともノーベル賞受賞者だ。
本庶さんも柳井さんも、
ともに山口県出身で、
県立宇部高校の先輩後輩。
柳井さんは記者会見でコメントした。
「医学の最大の問題は、
がんとウイルスではないかと思っている。
今後、京大と一緒に研究できればうれしい」
「ノブレス・オブリージュ」
“noblesse oblige“はフランス語だが、
もともとはラテン語。
“Honos habet onus”
「ホノース・ハベト・オヌス」
直訳すれば「名誉は、重荷を、持つ」
塩野七生さんの「ローマ人の物語」に、
詳しく書いてある。
古代ローマでは、
皇帝や元老院議員などが、
道路や建物などの建築費を自腹で支払った。
つまり社会のインフラストラクチャー整備を、
持てる者が身銭を切って請け負った。
ユリウス・カエサルをはじめとして、
アウグストゥスもポンペイウスも、
ほとんど例外なく、
ホノース・ハベト・オヌスをした。
それがヨーロッパの貴族たちに引き継がれ、
さらに現代の成功者たちにも受け継がれた。
柳井さんの京大への寄付は、
ノブレス・オブリージュそのものだ。
イオン㈱名誉会長の岡田卓也さんも、
㈱イトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊さんも、
同じようにノブレス・オブリージュを、
自ら実践している。
㈱ヤオコー会長の川野幸夫さんも、
財団をつくったり美術館を設立したりして、
ノブレス・オブリージュをする。
柳井さんの、
がんとウイルスの研究への寄付は、
現時点で世界的に有意義なことだ。
率直に敬意を表したいし、
商売を仕事にしている人の代表として、
誇りにしたい。
一方、日本の政治家はと見ると、
自分の選挙のために政党助成金をばらまく。
自ら贈賄行為をしなくとも、
それを黙って見ている態度は、
同じ次元のものでしかない。
見事に対照的だ。
しかしノブレス・オブリージュは、
成功者だけのものではないと思う。
自分の身の丈に合った社会活動をする。
それもノブレス・オブリージュの精神だ。
恵まれない人たちに、
わずかでも募金をする。
これもノブレス・オブリージュだ。
東日本大震災で被災した子どもたちに、
チャリティー活動を行う。
これもノブレス・オブリージュだ。
毎週、駅のトイレ掃除をする。
これもノブレス・オブリージュだ。
私はどうも、
お金を稼ぐことに関しては、
意欲も才能も乏しいようだ。
そのかわりにわずかな知識や情報を、
ささやかに提供したいと思っている。
これもノブレス・オブリージュになるか。
胸を張れるほどのことではないけれど。
[今年の商人舎標語]
世のため、人のため。
ひとつひろえば、
ひとつだけ街が美しくなる。
1本植えれば、
1本だけ地球がよくなる。
ひとつ売れば、
ひとつだけ喜びが生まれる。
ひとつつくれば、
ひとつだけ価値が生じる。
ひとつ運べば、
ひとつだけ経済が回る。
世のため、
人のため。
客のため、
店のため。
街のため、
国のため。
母のため、
父のため。
子のため、
孫のため。
妻のため、
夫のため。
愛する人のため、
未来の人のため。
2020年代の初頭、
令和2年のはじまりに。
ひとつひろえば、
ひとつだけ街が美しくなる。
1本植えれば、
1本だけ地球がよくなる。
ひとつ売れば、
ひとつだけ喜びが生まれる。
世のため、
人のため。
客のため、
店のため。
己のため。
新型コロナウイルスは、
「世のため、人のため」の精神も、
私たちに教えてくれた。
〈結城義晴〉