将棋の第61期王位戦。
木村一基王位に、
藤井聡太棋聖が挑戦する七番勝負。
藤井が三連勝のあとの第4局。
互いに8時間の持ち時間で、
長考に次ぐ長考。
2日間指し継いで、
今日の午後4時59分、
後手番の藤井の80手目を受けて、
木村が投了。
そして終わった。
王位のタイトルは藤井に移った。
18歳1カ月の史上最年少で、
二つ目のタイトルを獲得。
「二冠」と称する。
これに併せて藤井は八段に昇段した。
八段の昇段規定は4つある。
⑴竜王位1期獲得
⑵順位戦A級昇級
⑶タイトル2期獲得
⑷七段昇段後公式戦190勝
藤井は棋聖と王位。
「⑶タイトル2期獲得」の規定を満たし、
プロ八段が与えられる。
八段への昇段も史上最年少。
プロ棋士は四段から始まる。
奨励会というプロ養成機関に属して、
三段まで上がっていく。
その三段リーグの優勝・準優勝、
あるいは三段リーグ次点2回で、
天才たちが集まる奨励会を抜けて、
晴れて、プロになれる。
それが四段。
藤井聡太は2002年7月19日生まれ。
2012年9月、奨励会入会。
この時、小学校4年の10歳。
2015年10月18日、
史上最年少で奨励会三段に昇段。
中学1年で、13歳2カ月。
翌2016年9月3日、
三段リーグ最終局に勝利して、
10月1日、史上最年少で四段昇段。
14歳2カ月。
プロになってからは、
そのまま無敗で公式戦29連勝。
史上最多連勝記録を樹立。
その後、2018年2月1日、五段昇段、
同年2月17日、六段昇段、
さらに同年5月18日、七段昇段。
1年間に3段も登った。
これも史上初。
そしてこの王位戦タイトル奪取で、
藤井はあっという間に八段になった。
残るは最高段位の九段。
その昇段規定は4つある。
⑴竜王位2期獲得
⑵名人位1期獲得
⑶タイトル3期獲得
⑷八段昇段後公式戦250勝
藤井二冠はもう一つタイトルを取れば、
多分1年以内に九段に上がる。
今回の王位戦に関して、
藤井は昨年の予選トーナメントから、
挑戦者決定戦まで10戦無敗。
さらに王位戦4連勝で、
ここまで全勝で頂点に立った。
何から何まで記録づくめ。
しかし藤井は奢らない。
今回のタイトル戦に関しても、
「4連勝は実力以上の結果です」
一方の木村前王位。
「もう一度、一から出直します」
木村一基も、まったく、
素晴らしい。
将棋のプロフェッショナル、
例外なく、人柄がいい。
藤井の語録。
日本将棋連盟刊『藤井聡太 強さの本質』から。
タイトルの「強さの本質」を問われて、
藤井は答える。
「どんな局面でも
正しく指せるというのが、
強さというのかなと思います」
「状況がどうであっても、
そのなかで最善を尽くせることが
大切だと思います」
正しいこと、最善を尽くすこと。
それが「強さの本質」だと言う。
これは商いと全く同じだ。
いわばIntegrityである。
伝説の升田幸三は、
実力制第四代名人。
1918年生まれで、1991年に没した。
あの大阪の坂田三吉の孫弟子。
木村義雄、塚田正夫、
そして大山康晴という名人たちと、
死闘を繰り返した。
「新手一生」の四文字熟語が、
升田幸三そのものを言い表している。
その升田幸三の言葉。
「時代は変わっても、人間を磨くのは、
目的に挑戦する苦労だということは
変わりません。
いまの人も苦労はしてるが、
それは物欲を満たす苦労で、
自分独特、独創の苦労ではない。
どんな世界でも同じだと思う」
「プロとアマの違いは、
アマは真似でも通用するが、
プロの道は独創。
またそうでなきゃ通用しない。
だから苦しいが喜びも計り知れない」
考えて、考えて、考え抜く。
そして「独創」の新手一生。
升田幸三はInnovationである。
昨日のブログでも引用したが、
ギルバート・K・チェスタトン。
「偏狭なのはむしろ、
よく考えない人だ」
よく考える棋士は、
偏狭にならない。
これも商売と一緒である。
だから私は将棋が大好きだし、
商売も仕事も大好きだ。
〈結城義晴〉