天下の日経新聞社説が、
小売業のことを取り上げてくれた。
とっても、ありがたい。
「新型コロナが示した小売業の教訓」
「緊急事態宣言の発令から半年余り。
2020年3~8月期の小売業の決算を見ると
新型コロナウイルスの感染拡大が
個人消費に与えた影響は大きく、
今後の経営に教訓をもたらしている」
その通り。
社説子の言う教訓⑴
これまでの成功を支えた前提条件への過信は禁物。
「近年の消費の重心は、
人口減や少子高齢化とともに、
大都市部の繁華街や駅周辺にシフトしたが
コロナ禍で一変」
「テレワークの広がりや外出の自粛で
都心部の集客力が低下した」
そこで百貨店の3~8月期決算は悪化。
高島屋が232億円の最終赤字。
J・フロントリテイリングも163億円の赤字。
「デジタル化は遅れたままで、
インバウンドと高齢者に依存してきた
事業モデルの脆弱さが露呈した」
百貨店に対しては手厳しい。
「意外だったのが、
コンビニエンスストアだ。
有事に強いはずが、
都心部のランチ需要の大幅減に伴い、
上期の既存店売上高が極端に落ち込んだ」
社説子は流通の専門家ではないのか。
コンビニの低調に率直に驚いている。
この結果、最終損益は、
ファミリーマートが107億円の赤字、
ローソンは前年同期比84%減。
一方、食品スーパーマーケットは、
業績が回復した。
「郊外や住宅地に多い」と表現する。
「ライフコーポレーションは
純利益が前年同期の3倍に達した」
ライフは都心部にも出店しているが。
ここでまたコンビニに戻る。
「利便性で成長したコンビニだが、
時間の余裕が生まれた消費者に対して
提供する価値が低下してしまった」
論述が行ったり来たり。
社説の言う教訓⑵
客離れを放置してはいけないこと。
「コロナ禍は構造的に
客離れが進む産業や企業に容赦がない」
これはその通り。
コロナは相手を見ない。
大統領も農民も、容赦しない。
「例えばアパレル。
若者の関心が薄れていたほか、
カジュアル志向が強まり、
業績不振に拍車がかかった」
「オンワードホールディングスや
三陽商会など大手アパレルは赤字に陥り、
先行きが見えない」
あれれ?
これらの企業は小売業か?
「居酒屋チェーンも同じ。
以前から若者の
アルコール離れが進んでおり、
市場回復は困難を極める」
これも小売業ではない。
社説子、最初のテーゼを忘れている。
しかし柳井正さんの発言を引く。
ファーストリテイリング会長兼社長。
コロナ禍での企業のあり方について、
「今までの常識は通用しない。
自社の存在理由を考え抜くこと」
柳井さんの発言は正しい。
社説子の結論。
「企業はコロナ禍の教訓を生かし、
リスクの分散や新事業の育成など、
経営戦略の再構築が急務だ」
経営戦略の再構築が急務である。
これには大賛成。
しかしこの2つの教訓だけでいいのか?
さらに柳井さんの「自社の存在理由」と、
リスクの分散や新事業の育成は、
そのまま結びつくものではない。
取り上げてくれたのはありがたいが、
社説にしては分析が浅くて、甘い。
残念だ。
COVID-19は、
小売業だけではなく、
あらゆる業種業態に、
その存在理由を問う。
そのレゾンデートルから見て、
自社の事業を再定義するときである。
そこで改めて、
ピーター・ドラッカーの事業の定義。
ミドルマネジメント研修生、
知識商人大学修了生。
立教大学院の修了生も、
わかるだろう。
第1に、
組織を取り巻く「環境」である。
第2に、
その組織特有の「使命」である。
そして第3に、
使命を達成する「強み」である。
第1の環境の変化は、
新型コロナウイルス禍によって、
何が変わったかをつぶさに、
見る、聞く、考える。
第2の「使命」こそ、
柳井さんが言う存在理由だ。
使命は突き詰められねばならない。
だからこそ、
これまでの成功の前提条件を、
過信してはならない。
だからコロナ禍で使命を果たすために、
手段や方法は変わるかもしれない。
鈴木敏文さんの口癖。
セブン&アイ・ホールディングス前会長。
「過去の成功体験を捨てよ」
だとすればコロナ禍に限らず、
どんなときにも成功の前提条件を、
過信してはならない。
第3が自分の「強み」の分析だが、
コンビニの強み、百貨店の強み、
スーパーマーケットの強み。
そこから考えを始める。
時には、SWOT分析も必要だろう。
この「使命」と「強み」から発想して、
まず本業をどう変えていくか。
そのあとで新規事業をどう開発するか。
どうリスクを分散するか。
こういった思考回路を巡らす。
社説子の「客離れの放置」とは、
一体何か。
そしてそれへの対策は、
いったいどんなことか。
私が思うのは、
環境と使命と強みの再検証である。
むしろ、それしかない。
取り上げてくれたのはありがたいが、
浅くて、甘いのは困る。
読んだ小売業者が、
妙に納得しただけで、
それで終わってしまう。
これは困る。
〈結城義晴〉