ジョセフ・バイデン。
第46代アメリカ合衆国大統領。
どうやら当選が決まりそうだ。
初代は1789年のジョージ・ワシントン。
第3代トーマス・ジェファーソン。
第16代エイブラハム・リンカーン。
第32代フランクリン・ルーズベルト。
第35代ジョン・F ・ケネディ。
第40代ロナルド・レーガン。
これら人気の高い大統領に、
並び称されるかどうかはわからない。
しかし最高齢での大統領就任。
77歳。
北海道大学教授の古田徹さん。
朝日新聞「アメリカ大統領選2020」の連載で、
インタビューに答えている。
古田さんの専門は、
「ポピュリズム」。
トランプ政権で何が変わったか。
「政策でもってではなく、存在感で、
政治のモードを変えた」
「あれもありなのかと、
大統領自ら率先して
常識を打ち破っていく」
「トランプは伝染する」――
「アメリカ社会の分断に寄りかかって、
相手をののしり、なりふり構わず
たたきのめそうとする。
友か敵かの対立を先鋭化させました」
メキシコ国境に大きな壁を作った。
イスラム教徒の入国を禁止した。
関心を集めた政策も多かった。
しかし政策や制度レベルでの具体的な実現は、
三権分立が徹底しているアメリカでは
意外に難しかった。
気候変動をめぐるパリ協定からの離脱、
イラクからの撤退、
新型コロナ禍でWHOからの脱退。
これらの動きは、
トランプによるというよりも、
「米国のヘゲモニー(覇権)の衰退という
長期的な傾向の延長線上にあります」
「衰退する米国が
世界的な『公共財』を提供する力を失い、
そのコストに耐えられなくなった」
歴史学者ウォーラーステインの指摘。
「100年単位の覇権の変化」
1920年代のドイツは議会の中で
反ワイマール共和国勢力が多数を占めて
事実上議会が機能しなくなった。
議会内で分極化が起きてしまい、
その結果として
ナチ党に政権が移譲されるに至った。
「ここで重要なのは順番です」
「分極化が先にある。
政治家が分極化を
生み出したわけではない」
ポピュリストが
民主主義を危機にさらすのではない。
民主主義が危機にあるからこそ、
ポピュリストが呼び込まれる。
「彼らは分断や分極によって生み出され、
それにさおさすことで
ダメージを深刻なものにします」
トランプに関して。
「強烈な個性を持った人物であることは確かです。
ただむしろ背景に注目して
彼の個性を”脱神話”化しなければ、
本当の危機が見えなくなってしまうでしょう」
これは重要だ。
8年7カ月の最長を誇った安倍政権も、
「脱神話化」しておかねばならない。
「ファシズムの責任を
ヒトラー一人に押しつけることが
不可能なのと同じです」
英語のクライシス(危機)には、
”分岐”という意味がある。
「現代は産業構造と労働が
大きな転換期を迎えています」
「ポピュリズム」の特徴。
エリートに対する一枚岩の
“真の人民”という観念が生まれる。
そしてその代表を自任する、
政治家が存在する。
歴史的に見て、
こうした転換の時代に生まれる。
「トランプ氏はその典型の一人です」
ここで古田教授の専門。
ポピュリズムの第1の波は19世紀後半。
米国では人民党(ポピュリスト党)が結成され、
同時期のロシアでは
ナロードニキ運動が起きた。
第2の波は1950年代。
米国のマッカーシズムが象徴的。
フランスでも反共・反租税運動があった。
「プジャーディズム」と呼ばれた。
第1波は、農業経済から工業経済への
本格的な離陸があった時代。
第2波は都市化とサービス産業への
シフトが起きる時期。
そして、第3波のいまは先進国で
製造業の衰退とIT化・デジタル経済への
転換が起きている。
「いずれの波でも、
大きな産業構造や労働のあり方の転換から
取り残された人の不満を
既存の政治がくみ取れず、
別の政治を求めるようになる」
現在の特徴。
「分極の源泉が
アイデンティティーに関わるものになっている」
Identityは帰属意識。
トランプの場合。
産業構造の転換に取り残されたばかりか、
多様化が進む中、社会的にも
マイノリティーに没落する恐怖に陥っている
「白人・男性・労働者」というIdentityに訴えかけた。
個人のIdentityを脅かす敵が常に作り出され、
その情念やルサンチマン(怨念)をもとでに
政治が市民を動員していく。
「トランプの場合は、
その敵が時に中国だったり、
メディアだったり、
イスラム過激派だったり、
ワシントンのエリートだったりする」
その通り。
こうした政治は、
個人のIdentityが揺らいでいることの
裏返しでもある。
「右派だけではありません。
左派も含め、Identityの政治が
前面化しています」
#MeToo運動やBLM運動が加速する。
「その背景にも”私は何者か”という問い、
つまり他の人と人種やジェンダー、
ナショナリティーがどう違うか、
があります」
「社会の構造的差別の原因は
この”違い”にあると捉えられ、
怒りが、政治的な力に転換されています。
自分と違う人たちへの不安や不満が
政治を動かす大きな力になっているのです」
なるほど。
日本の場合。
「アイデンティティー政治が
SNSを中心に広がる一方、
旧来の団体政治は力を失っている
というトレンドは一緒です」
「ただ欧米ほどの強度がないのは、
既存の政治への不満、
とりわけ保守層の不満を、
8年にわたった安倍政権が吸収してきた」
「既存の政治の内部から
ポピュリズムの芽が、
結果的に摘み取られた」
「Identityの政治には
政策的な解がなく、
合意が難しいという問題がある」
「賃金や労働時間などをめぐる
具体的な話ならば交渉や妥協によって
落としどころを見つけられます。
反対に自分のIdentityをかけた戦いは、
他者への怒りや憎悪という感情を増幅しやすい」
「さらにトランプ政治のように政治家が
自分の支持につなげようとあおると、
妥協や解決は困難をきわめます」
「歴史的に見た場合、
ポピュリズムは過渡的な現象です。
激烈な感情の噴き出しが起きた後には、
必ず制度的にそれが
解消されなければならないからです」
過去の第1の波は、
民主党のルーズベルト政権を生み出し、
支えたニューディール連合につながった。
第2の波はレーガン政治に代表される
新自由主義に吸収されていった。
では今の第3の波はどこへ向かうのか。
「それを占うにはトランプ政権の4年間を
世界がどう評価・学習するかに
かかっています」
「トランプのような強烈な政治家ですら
既存の政治を変えることが
できなかったとみるのか、
それともリベラルな価値や戦後の国際秩序を
踏みにじったことを許せないとみなすのか」
「これは、”自国第一主義”の流れが続くのか、
”リベラルな国際秩序”が回復するのかの
分岐点にもなります」
バイデンは後者を選び、
そちらに導くだろう。
それは日本にとっても救いだと、
私は思う。
流通ポジショニング戦略も、
identityの時代の潮流に沿っている。
〈結城義晴〉