今日も1日、横浜商人舎オフィス。
月刊商人舎12月号。
もう一歩です。
それにしても何年やっても、
原稿執筆という仕事は、
サクサクとは進まない。
㈱ヤオコー会長の川野幸夫さんが、
ゆっくりと語ってくださった。
ヤオコー所沢北原店改装オープンのとき。
「効率を狙ってばかりで、
効果が上がらない」
原稿書きの仕事も、
まったく同じだ。
3000字、5000字、1万字と、
効率的に書いていっても、
良いものが書けなければ意味がない。
つまり効果のことを考えつつ、
呻吟(しんぎん)する。
すると効率は、当然ながら落ちる。
その効果と効率との格闘こそ、
原稿を書く仕事だ。
私はいつも、ずっと、
効果を狙う。
原稿を書くことに関しては、
一度も自分の掟を破ったことはない。
今日も呻吟の連続。
「呻吟」とは苦しんで呻(うめ)くこと
何という因果な仕事を選んでしまったのか。
今となってはもう遅い。
しかし後悔もしてはいない。
さて、北海道新聞の一面コラム。
「卓上四季」
北海道の新聞らしく硬派。
発行部数は全国紙を入れて第7位。
1位 読売新聞
2位 朝日新聞
この後は調査によって異なるが、
毎日新聞、日本経済新聞、中日新聞。
6位 産経新聞
北海道新聞はそのあとの7位だ。
大したもんだが、
巻頭コラムの「卓上四季」も、
なかなかいい。
今日のタイトルは、
「”沈黙”の値崩れ」
英国の歴史家カーライルの言葉を引用。
「沈黙は偉大なる物事ができ上がる土壌」
古来からの「美徳の相場観」は、
「雄弁は銀、沈黙は金」
「そうした沈黙の価値を、
この人は崩していまいか」
コラムニストが言いたいのは、
菅義偉首相のこと。
今日閉幕した臨時国会で、
「お答えを差し控える」を連発。
日本学術会議の会員任命拒否の件、
安倍晋三首相の「桜を見る会」疑惑の件。
「疑われているのは前首相の虚偽答弁だ」
コラムニストの菅評。
「壮大な構想は見えず、
保身ばかり目立つ」
「内閣は国会に対し連帯して責任を負う。
説明責任からは逃れられない」
古代ローマの喜劇作家プブリリウス・シルス。
「愚か者にとって、
沈黙は知恵となる」
これも「沈黙は金」と同じ趣旨だ。
ところが桜井啓太立命館大学准教授。
歴代総理の答弁回避を調査した。
菅首相の「差し控える」は、
安倍前首相以上に多い。
菅総理は「誠実に答えてきた」と反論する。
しかし桜井淳教授は調査をもとに全否定する。
「”誠実”という言葉を破壊している」
「謙虚に見せて、国会軽視がのぞく」
「答弁能力のなさを隠そうとしている
という野党の主張が真実味を増す」
これらの指摘のタイトルが、
「”沈黙”の値崩れ」
座布団一枚!!
さて新聞発行部数ランキング2位の朝日新聞。
その一面コラム「折々のことば」
今日の第2014回。
飛ぶのは
簡単だけど、
歩くのは
なかなかむずかしい。
(中川素子著『宙(そら)からきた子どもたち』から)
「羽を外して歩く練習をくり返す
小さな天使たちが降り立ったのは、
戦争の絶えない”悲しい星”、地球だった」
編著者の鷲田清一さん。
「そこで彼らは……と物語は続くのだが、
私はこの言葉を勝手に深読みした」
「社会を高みから俯瞰(ふかん)するより、
出来事の藪(やぶ)の中を
歩み抜くほうが難しいと」
同感だ。
昨年2019年の月刊商人舎9月号。
巻頭の[Message of September]で書いた。
地べたを這いつつ、
宇宙を見よう。
地べたを這いつつ、
宇宙を見る――。
「虫瞰図の眼」。
虫の視線ではるか宇宙まで見通す。
作家で運動家だった小田実のスタンス。
虫の眼、鳥の眼、魚の眼。
そして心の眼。
商人の眼。消費者の眼。
つくり手の眼、卸し手の眼、売り手の眼。
三方良しの眼――。(以下略)
本来、菅義偉首相こそ、
「虫瞰図の眼」を持っていたはずだが、
日本学術会議の件の答弁では、
「総合的、俯瞰的」を繰り返した。
「沈黙の値崩れ」とともに、
自己矛盾の粗(あら)が見えてきた。
残念なことだが。
効率を狙ってばかりいると、
効果を上げられなくなる。
恐ろしい。
〈結城義晴〉