昨日、月刊商人舎2月号を責了した。
みなさんの会社で、
毎月の成果の締めをするようなものだ。
出版社ではその成果が、
たとえば一冊の月刊雑誌となる。
今日もオフィスに出て、
やり残した仕事や単行本の原稿執筆。
机の上にいつもあるのが湯呑。
「商売十訓」が書かれている。
損得より先きに善悪を考えよう
創意を尊びつつ良い事は真似ろ
お客に有利な商いを毎日続けよ
愛と真実で適正利潤を確保せよ
欠損は社会の為にも不善と悟れ
お互いに知恵と力を合せて働け
店の発展を社会の幸福と信ぜよ
公正で公平な社会的活動を行え
文化のために経営を合理化せよ
正しく生きる商人に誇りを持て
この十訓がいつも机の上にある。
私はこれによって、
守られているような気になる。
この湯呑は、
私が㈱商業界の社長だった2006年に、
2月ゼミナールに向けて、
新入社員たちが企画・制作し、
販売したものだ。
私は代表取締役として、
その自主的な発想を高く評価しつつ、
社長直轄のGプロジェクトとした。
この「商売十訓湯呑」には、
そんな想いが込められている。
このとき湯呑だけでなく、
Tシャツもつくられた。
「店は客のためにある」Tシャツと、
「先客万来」Tシャツ。
新入社員たちが製作したTシャツを着て、
私は基調講演をした。
さて朝日新聞「天声人語」
看板の巻頭コラム。
「”折々のことば”と小欄は、
軒を連ねるお店のよう」
「互いに干渉せぬ仲ながら、
気持ちの上では支え合い、
競い合う」
理想の関係だ。
「天声人語」は朝日のベテラン記者が書く。
「折々のことば」は哲学者の鷲田清一さん。
私も時々引用するが、
最近は鷲田さんばかり。
軒を連ねるお店だが現在は、
圧倒的に「折々店」のほうが人気がある。
その鷲田さんのコラムは、
2月2日の第2007回でストップして、
現在、休店中だ。
ちょっと心配だ。
しかし人気は絶大で、
「私の折々のことばコンテスト」が、
毎年、開催される。
読者から「ことば」が送られてくる。
今回は全国の中高生から、
2万9000編が寄せられた。
隣店の「天声人語」がその中から、
選んだ大切な「ことば」。
札幌市の中学生冨田遥乃(はるな)さん。
宮城県に住む祖母のことば。
「食う分さげあればいィ」
宮城弁。
「コロナ下で
様子うかがいの電話をかけると、
“津波に比べだら屁(へ)でもないよ”」
東日本大震災で被災した、
おばあちゃんの元気な声。
「濡(ぬ)れでないし、寒ぐないもの。
どうなっかわがんないごとに
人はビビるんだっちゃ。
起ぎで食って寝る。
あどなんもいらんべし」
投稿者の富田遥乃さん。
「思い、思われ、ちゃんと食べる。
日常の大切さを学んだ」
「どうなっか
わがんないごとに
人はビビるんだっちゃ」
だから必要なのは、
小さな喜び
ささやかな幸せ
明日への希望
「明日への希望」は、
どうなるかわかること。
それが見えてくることだ。
北海道新聞の巻頭コラム「卓上四季」
「美しい唇であるためには、
美しい言葉を使いなさい」
映画「ローマの休日」主演の、
オードリー・ヘプバーンの言葉。
「人の美しさは見かけではなく、
内面が問われているということ」
オードリーは、
ナチス・ドイツ占領下のオランダで、
レジスタンス活動に携わった。
戦後は国連児童基金の親善大使として、
精力的に活動した。
米国映画初主演で、
いきなりアカデミー主演女優賞。
コラムはここで、
森喜朗元首相の発言問題に触れる。
「こちらは醜い言葉だった」
東京五輪・パラリンピック組織委員会会長。
「女性がたくさん入っている理事会は
時間がかかる」
「国内外で辞任を求める声がやまない。
そこにこの人の本心を見たからだろう」
「問題の本質は
森会長の不見識にとどまらない。
発言があった会合ではいさめる人もなく、
笑いすら広がったそうだ。
傍観した人々を含め、
社会全体の意識が問われている」
ヘプバーンの言葉には続きがある。
「美しい瞳であるためには、
他人の美点を探しなさい」
コラム。
「人の美点をつぶしているのは、
その瞳を閉ざす狭隘(きょうあい)な
貧しい心にほかならない」
年を取ったからといって、
「狭隘」になってはいけない。
「貧しい心」はいけない。
「起ぎで食って寝る。
あどなんもいらんべし」
質素であっても、
おばあちゃんは貧しくはない。
〈結城義晴〉