三寒四温、
春風踏脚。
このところ週末は暖かい。
考えてみると「三寒四温」は、
ウィークリー単位となるから、
その年、週末が暖かいサイクルならば、
その冬中、ウィークエンドは暖かい。
しかし今日はひどく風が強い。
横浜駅の西口側。
北幸にある商人舎オフィス。
一人で出社して、
単行本の執筆。
これもいい。
一人でコーヒーを淹れて、
一人で味わう。
そして物思いにふける。
パソコンに向かう。
静かな時間が流れていく。
仕事は私にとって、
至福の時間。
これほど幸せなことはない。
心から感謝。
しかしいったい私は、
何に対して感謝しているのか。
欧米人ならこんな時にこそ、
神に感謝するのだろう。
私はそんな神をもたない。
だから「仕事」に感謝する。
帰宅して、
全豪女子オープン決勝を、
テレビ観戦。
大坂なおみ対ジェニファー・ブレイディ。
第1セットは伯仲。
それを精神力で乗り切って、
なおみがセットを奪うと、
第2セットは簡単に制覇。
結果としてみると、
なおみ、圧勝。
大坂なおみの父は、
ハイチ共和国出身のアメリカ人、
母は根室市生まれの日本人。
ダイバーシティを体現する。
だからその発言も注目されるし、
その注目に答えて、
素晴らしいコメントを発する。
2018年に全米女子オープン優勝、
19年、全豪女子オープン、
20年、全米女子オープン、
そして今年、全豪女子オープン。
全仏オープンとウィンブルドンは、
これからの目標だろう。
今回の優勝コメント。
「私のチームに感謝します。
あまりに長く一緒にいすぎました。
1カ月以上、一緒にいます。
隔離を一緒に乗り越えました。
私にとって家族のような存在です。
トレーニング、試合中ずっと一緒です。
試合前、緊張している私の話を聞いてくれます。
そのことに感謝しています」
「そして会場の皆さんに感謝します。
ここに見に来てくれてありがとうございます。
前のグランドスラムは無観客でした。
エネルギーをいただけて本当に力になりました。
そして心を開き、私たちを迎えてくれて
本当にありがとうございます。
グランドスラムを今、
戦えるのは本当に大きなこと。
機会をくれた皆さんに感謝します」
感謝を繰り返した。
それに私たちは感動した。
ところで、
COVID-19ワクチン。
現在、日本では医療従事者に、
米国ファイザー社製が接種されている。
しかしそのワクチンを開発したのは、
ドイツのバイオ製薬ビオンテック社だ。
CEOはウグル・サヒン。
2月14日の日経新聞電子版で、
インタビューに答えている。
「20年1月12日の土曜日、
独西部マインツのすばらしい朝市で
トルコパンと紅茶で朝食をとっていた」
サヒンCEOはトルコ人だ。
ドイツで出稼ぎしていた父を追って移住。
「医学誌『ランセット』で
中国・武漢の新型肺炎の記事を読み、
世界的なパンデミックになると直感した」
凄い直観力だ。
「すぐに妻で、Chief Medical Officer(CMO)の
オズレム・トゥレシに
ワクチンを生産しなければ、と相談した」
トゥレシCMOは、
ドイツ生まれのトルコ系移民2世。
2人は大学の研究所で知り合って、
結婚後に会社を設立。
それがビオンテックである。
日本で新型コロナウイルス感染者が出たのは、
1月16日だ。
その4日前にサヒンは、
ワクチン開発を心に決めていた。
「月曜には主要な従業員や監査役会に
状況を説明し、説得した」
「我々はmRNAを使った
がん治療薬を開発していたが、
大きく方針転換した」
mRNAはウイルスの遺伝子の一部を、
人工合成してヒトに投与する新しい技術だ。
この技術を使って「mRNAワクチン」は、
新型コロナで初めて実用化された。
「まずチームを作った。
ワクチン候補を見つけるチーム、
免疫試験するチーム、
生産を担当するチーム、
そして治験のチームなどだ」
チームマネジメントである。
「これらは順番に進めていくのが普通だが、
我々は最初からすべてを並行して始動した。
無駄にできる時間などなかった。
週7日、24時間体制で作業し、
20以上の候補を見つけた」
そしてファイザーがパートナーになった。
「大西洋の両側で開発し、
候補を絞り込み、治験し、
20年11月9日に我々のワクチンは
非常に効果が高いという結果が得られた」
ファイザーのアルバート・ブーラCEOは、
ギリシャ出身の獣医である。
「11カ月での実用化は、
科学の力を示すことができた物語だし、
協力の力を示せた物語でもある。
同じ目標を本気で目指せば
不可能はないということを示せた」
トルコ人とギリシャ人。
歴史上は血みどろの闘いを繰り返した。
そのトルコ系ドイツ人と、
ギリシャ系アメリカ人が、
コロナウイルスワクチンを開発した。
サヒンが直感しなければ、
トゥレシが賛同し後押ししなければ、
そしてブーラが協力しなければ、
コロナワクチンは、
こんなに早く開発されていなかった。
世界はダイバーシティによって、
感動を与えられ、
命を救われている。
〈結城義晴〉