中日新聞「中日春秋」と東京新聞の「筆洗」。
系列なので同じ巻頭コラムの日も多い。
2日間、「風」の話でつないだ。
今日のコラムは、
ボブ・ディランの「風に吹かれて」。
この歌が書かれたのは1962年。
およそ60年前。
「武器が永久になくなるまでに何度、
砲弾が飛び交わなければならないのか。
自由を許されるまでに何年、
あの人たちはあのままなのか」
2016年、村上春樹を退けて、
ノーベル文学賞を受けた、
シンガー・ソングライター。
そのディランが21歳の時に書いた歌詞。
「人間が抱える問題は
いつ解決するのかと問い、
〈友よ、答えは風の中だ〉と
声を抑え、歌っている。
風の中の答えを探し続けるしかないと」
「風に吹かれて」
Blowin’The Wind
How many roads must a man walk down
Before you call him a man?
人はいくつの道を歩めば、
人として認められるのだろう。
How many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand?
白い鳩はいくつの海を越えれば、
砂浜で眠ることができるのだろう。
How many times must the cannon bolls fly
Betore they’re forever banned?
なんど砲弾が飛び交えば、
それは永遠に破棄されるのだろう。
The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind
友よ、答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている。
How many years can a mountain exist
Before it’s washed to the sea?
山はどれだけの間、
山のままであり続けるのだろう。
海に流し出されるまで。
How many years some people exist
Before they’re allowed to be free?
人々はどれだけ生きれば、
自由の身になれるのだろう。
How many times a man turn his head
Pretending he just doesn’t see?
人は何度、見て見ぬふりをしながら、
顔を背けるのだろう。
The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind
友よ、答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている。
〈結城義晴訳〉
〈出典・blog.goo.ne.jp〉
コラムはミャンマーに飛ぶ。
国軍による軍事クーデターから1カ月余。
市民の抗議活動に対する
国軍の容赦のない弾圧が続く。
既に死者は五十人を超えた。
日ごとに国軍の暴力がエスカレートしている。
「現地の若者が
プラカードを掲げている写真に
その歌を思い出した」
プラカードにはこうあった。
「何人分の死体があれば
国連は行動してくれるのだろう」
「発砲、拘束に震える市民の
唯一の希望は国連だったはずだ」
「暴力を止めるべき国連が
何人分もの死体を前にしても動かない」
3月5日の安保理の協議でも、
国軍に対する制裁決議などは、
見送られている。
アメリカ・イギリスと、
制裁に慎重な中国。
足並みがそろわない。
そして犠牲者が増えていく。
「いったい何回、顔をそむければ
見なかったふりができるのか」
「ディランの歌と現地の叫び声が
重なって聞こえる」
同感だ。
一方、昨日のコラム。
「風に吹かれる木の枝を見ていると、
一枚か二枚だけ違った方向に
そよいでいる葉に気付くことがある」
「流れにちょっと逆らうような動きは、
心の中にもある」
「いつか消えてしまう、
そういうものを、つとめて、
破片でも残しておきたい」
随筆集のあとがき。
篠田桃紅(とうこう)さん。
美術家、エッセイスト。
「水墨画の世界でも、
大きな流れにとらわれず、
別の向きにそよいだ人だろう」
若いころ、自分は枠や常識に
収まらないと自覚したという。
抽象的な作品は
米国の前衛芸術の世界で認められた。
「泥水でだって描けます」
「自由な道を行く人の心意気を思わせる
そんな言葉も残している」
「墨色の空は空より青く、
墨色の花は花より赤く……
心に色が映らなければ、
墨にも色は映りません」
その篠田桃紅さんが、
百七歳で亡くなった。
「もっといいものが描けるんだと
いつでも思っているから
次の作品をつくる」
アルフレッド・ヒッチコック。
それから黒澤明。
「一番の作品はネクスト・ワン」
そして「流通革命」の林周二も。
篠田桃紅さんは、
若い時から際立って美しかった。
100歳を越えても、
その美しさは変わらなかった。
岐阜県立美術館のホームページ。
篠田桃紅フォトギャラリー。
見てほしい。
「もっといいもの」が描ける。
それを信じる。
それが美しさの源にある。
ご冥福を祈って、合掌。
〈結城義晴〉