家を出て、小さな坂を登る。
そこに咲く桜。
満開だ。
桜の木の下に、
桜の花に包まれるように立つ。
散った桜散る桜散らぬ桜哉
〈正岡子規〉
小林一茶には桜の句が実に多い。
ちる桜けふもむちやくちやくらしけり
〈文化三年〉
桜の季節は心が落ち着かない。
宗左近(そうさこん)は一茶を読み解く。
「あわただしい季節の移り変わりのなかに、
置かれるからでしょうか。
何か出鱈目なことを仕出かさなければ、
バランスがとれません」
来年はなきものゝやうに桜哉
この咲っぷりが桜だ。
来年のことなど考えずに、
今年に咲き乱れる。
古き日を忘るゝなとや桜咲
旧い昔を忘れるなと、
桜は説教する。
桜を見るたびに説教される。
昨夜は10時間寝た。
今朝8時半に起きて、
だらだらと過ごして、
ブランチをいただき、
また寝た。
このところハードワークが続いた。
とりわけ単行本を仕上げるという、
プレッシャーがずっしりと全身を覆っていた。
それをやり遂げたら、
ちょうど春眠暁を覚えずの季節。
しかしCOVID-19感染拡大は、
第四波を予感させる。
世の中は
地獄の上の花見哉
〈文化九年〉
花見はいいけれど、
今、宴会はいけません。
地獄の上の花見となってしまう。
けふは花見まじ
未来がおそろしき
〈文政一年〉
江戸の時代にも、
仏典には「未来永劫」の言葉があった。
現代の私たちの「未来」とは異なる。
それを一茶の感性がとらえた。
仏様の救いの届かない「無」の「地獄」。
そういう未来を心の片隅に置きながら、
一茶の日々はつづく。
だから今日は、
桜を見るのをやめよう。
目が開かれて、
未来が見えてしまう。
だらだらとした私の一日。
商売に励んでいる人たちには申し訳ない。
おそれながら申上まする桜哉
〈発句鈔追加〉
寝て起(おき)て大欠(おおあくび)して桜哉
今日だけは、
未来を見るのをやめましょう。
〈結城義晴〉