久しぶりの朝日俳壇。
梅雨晴間坂東太郎慈父のごと
〈千葉市・甲本照夫〉
坂東太郎は利根川のこと。
川幅が大きくて、ゆったり流れる。
それが慈父のようだ、と。
しかし「極端気象」のなかの梅雨豪雨は、
慈父どころか、山津波を起こした。
接種医の白衣を揺らす扇風機
〈川崎市・小関新〉
夏のワクチン接種。
ちょっとした安ど感が出ている。
「2020年コロナ禍歌集」
現代歌人協会編。
気管挿管せむと大きく息づけば
フェイスシールドたちまち曇る
〈小松昶〉
歌人は医者でもある。
患者が呼吸できるように、
喉に管を差し込む。
それを「気管挿管」(きかんそうかん)という。
その医療処置の緊張感。
いくどこんなシーンがあったか。
日本全体のワクチンが不足し始めた。
需要と供給のバランス、
そのサプライチェーン。
それは小売流通業の日々の仕事では、
当たり前のこと。
万一、品切れが起こりそうになったら、
必須の商品から手当てする。
つまり優先順位。
プライオリティ。
日本の新型コロナワクチンには、
残念ながらそれがなかった。
朝の関口宏の番組で、
寺島実郎さんが語っていた。
「医療者、高齢者のあとは、
エッセンシャルワーカーと言われる人たち、
コンビニやスーパーで働く人たち。
そんなプライオリティが必要だった」
それをせずして、
職域接種は大企業から始められた。
寺島さんの言っていることは実にまっとう。
賛同するものだ。
県外者の我は参列許されず
父の葬儀を動画にて見る
〈田中徹尾〉
私はアメリカにいて、
父の葬儀に出られなかった。
国内にいてもコロナ禍で、
緊急事態宣言下の人は、
葬儀からはじき出される。
住みかより出られざる春
さりとても
住みか失う人多き春
〈花山多佳子〉
家から出られない人の多い春。
それよりも家を失う人もいる春。
辛い日々は続く。
しかし再び朝日俳壇。
短夜を二分で寝付く元気爺
〈横浜市・松永朔風〉
私もこれに近い。
寝ようと思ったらいつも、
直近のゴルフのラウンドを思い浮かべる。
すると2ホール目くらいには眠っている。
まだまだ、
エッセンシャルワーカーズには、
感謝しなければならない。
ちいさな喜び
ささやかな幸せ
あすへの希望
それを与えてくれる仕事こそ、
何よりも尊いものだ。
そしてそんな、
エッセンシャルワーカーズは、
いつも繰り返している。
朝に希望、
昼に努力、
夕に感謝。
それが私のしごとです。
それが私のやくめです。
そうして今日が、はじまって、
そうして今日が、おわります。
万緑の山から海へ大空へ
〈芦屋市・奥村里〉
私たちの希望も、
山から海へ、そして大空へと、
広がってほしいものだ。
ありがとう。
〈結城義晴〉