あの日、恐竜は、
生きていた。
パシフィコ横浜で、
恐竜科学博が開かれている。
6600万年前に絶滅した恐竜の時代には、
COVID-19など影響はなかった。
人間がいなかったからだ。
さらに地球温暖化もなかった。
人間がいなかったからだ。
そのかわりに氷河期はやってきた。
地球の急激な温度変化はあった。
「”地球にやさしい”は大嫌い!」
早稲田大学・丹治保典教授。
「たとえ何発、原爆が落ちようとも、
地球自体は何ともない。
地球にとって優しいことは、
むしろ人間がいなくなること」
仰る通り。
丹治先生は昨年3月まで、
東京工業大学生命理工学院教授。
「大切なのは、人間が住む環境なのです」
人間が自ら、
自分たちが住む環境を悪化させ、
地球の温暖化を招き寄せ、
ひょっとしたら感染症をまん延させた。
だから本質的な「まん延防止」の措置など、
人間にできるはずがない。
日本の「まん防」もまるで効き目はない。
人間の存在そのものに、
問題の根源があるからだ。
では、どうするか。
日経新聞一面「折々のことば」
第2100回。
一人の人間の
一日には、
必ず一人、
「その日の天使」が
ついている。
(中島らも随想集『その日の天使』から)
「ひどく落ち込み、思い詰めて
自死すら考えた時、
知人から思いがけない電話が
かかってくる」
「ふと開いた画集の中の
一枚の絵に震える」
「そんな偶然に救われることがあれば、
それがその日の天使なのだ」
作家・中島らもは言う。
私と同年。
52歳のときに、
フォーク歌手の三上寛と飲んだあと、
飲み屋の階段から転落して、
結局、死んだ。
編著者の鷲田清一さん。
「幼児や酔っ払いかもしれないが、
彼らが神の使いとして日に一度、
誰にも訪れるのだと思えば、
ふんづまりの毎日にも隙間が空く」
スカンジナビア航空を立て直したのが、
ヤン・ゴスタ・カールソン。
航空業界世界最年少CEOだった。
1980年に39歳で、
スカンジナビア航空のトップに就任。
赤字で苦闘していた同社を1年で再建。
それは『真実の瞬間』に描かれている。
英語では”Moment of Truth”
もともとは闘牛の言葉だ。
闘牛士が牛にとどめを刺す瞬間のこと。
カールソンは航空会社のスタッフが、
顧客にとどめを指す瞬間は、
最初の15秒だと見抜いた。
2時間、3時間、あるいは8時間の、
長いフライト中ではない。
そしてそれは1日に、
5万回訪れていると分析した。
その真実の瞬間に、
最高の満足を与えよう。
わかりやすい。
一人の人間の一日には、
かならず一人、
「その日の天使」がついている。
それは一瞬の真実の瞬間だ。
顧客との接点かもしれないし、
科学博の恐竜と目が合った時かもしれない。
今日もオリンピック柔道。
女子78キロ超級で素根輝(そねあきら)が、
見事な足技・寝技の連続で金メダルを獲得。
一瞬のスキをついた技の切れが、
素根に勝利をもたらした。
フェンシングでは、
エペ団体戦で日本チームが優勝。
これも真実の瞬間をとらえた勝利だ。
フェンシング競技は3つの種目がある。
最もシンプルな胴体を突き合うフルーレ、
全身のどこを突いても勝ちとなるエペ。
チャンバラに似た斬る動作が入るサーブル。
そのエペで史上初の金メダル。
これまでのメダルは、
2008年北京男子フルーレ個人の太田雄貴、
12年ロンドンのフルーレ団体の銀。
フルーレの2つしかなかった。
それを東京五輪ではエペ団体で金。
彼らは確かに、
「真実の瞬間」をつかんだ。
一方、菅義偉首相。
またまた金曜日の夕方、記者会見。
昨日、予告した通りの、
緊急事態宣言の拡大と延長。
それも来週月曜日から、
来月末まで。
ここには「真実の瞬間」の概念がない。
つまりマーケティングが欠落している。
だから国民の心をつかめない。
専門家の分科会の学者たちとも、
意見の共有ができない。
おそらく本当の議論がないのだろう。
さらにマスコミの心さえ握れないから、
辛らつな質問が相次いだ。
「責任」を問う質問だ。
それに対してはまったく答えず、
言葉も口調も内容もこれまで通り、
「感染を抑えることが私の責任です」
それならば、
1日1万人超が続いている今、
責任が果たせているのか。
ああ。
最近は私も、いら立っている。
菅式楽観バイアスに。
菅ファンの方もいるのだろうから、
そんなに悪くは言いたくないが、
言わずにおれない。
ただし言えば、あるいは書けば、
気がまぎれるわけではない。
それでも私たちは、
落ち込んではいられない。
気を取り直して、
一人ひとりが感染症と闘わねばならない。
一人の人間の
一日には、
必ず一人、
「その日の天使」が
ついている。
〈結城義晴〉