2021年の8月に入った。
空は青い。
雲は白い。
朝、7時52分。
雲は静かだ。
池の水も穏やか。
そして雲は動かない。
木も静かに立っている。
「谷川俊太郎詩集」から。
美しい夏の朝に
巨人になりたい
この山々を
この雲を
この青空を
この夏の朝を
両腕に抱きとりたい
巨人になりたい
山の彼方の幸せを
指でつまんで
ポケットに入れ
夜へと向かう
すべての憧れを
小鳥のように
つかまえてしまう
巨人になりたい
一日に一度打つ心臓
永遠をみつめる瞳
太陽に火傷する指先
日記には歴史をしるし
革命の悲惨を
裏切りの栄光を
残らず両手にすくいとる
巨人になりたい
暗黒の宇宙に身を投げ
銀河の流れに泳ぎ
両腕に地球を抱きしめ
黙って涙をこぼしている
限りなく無力な
巨人になりたい
そうでなければむしろ
一匹の蟻になりたい
露草の迷路に果てなく迷い
いつまでも迷いつづけ
それでいい
この美しい夏の朝に
〈挿絵・長新太〉
東京オリンピックを、
テレビで観戦していて、
「巨人になりたい」を思い出した。
この青空を
この夏の朝を
両腕に抱きとりたい
巨人になりたい…
両腕に地球を抱きしめ
黙って涙をこぼしている
限りなく無力な
巨人になりたい…
さあ、8月だ。
このひと月を、
COVID-19との、
最後の闘いにしたい。
この夏の朝を、
両腕に抱きとり、
オリンピックの感動を、
新型コロナとの闘いの、
原動力にしたい。
一人残らず、
アルファとベータとガンマと、
そしてデルタとの闘いに、
参加させたい。
若い人も、
老いた人も、
強い人も、
弱い人も、
豊かな人も、
貧しい人も、
女も、
男も、
ジェンダーを超えて。
ともにコロナと闘う、
8月にしたい。
〈結城義晴〉