私は新聞の巻頭コラムが大好きだ。
出張にでると地方紙のコラムを読む。
インターネットで、
全国の新聞の巻頭コラムを読むこともできる。
日曜日のコラムはなぜか、
二紙が四字熟語をテーマにした。
中国新聞の「天風録」
タイトルは、
「前後際断という境地」
プロ野球の左腕投手だった下柳剛(つよし)。
34歳の時、日本ハムから阪神へトレード。
それでも37歳で最多勝。
そのグラブに書かれていたのが、
「前後際断(さいだん)」
江戸時代の沢庵(たくあん)禅師の言葉。
「過去をくよくよ引きずっても
何も変わらず、未来を憂えても
取り越し苦労になるのがおち。
今の今、この時を生きよ」との戒め。
「退くも地獄、進むも地獄」
下柳はそれを承知していた。
そこで中田翔。
同僚への暴力から日ハムを退団し、
巨人に転進した32歳。
打率1割台の不振で、2軍へ。
コラム。
「自らの言動を省みる時間も
ろくろく与えられぬまま、
プレーに日々追い立てられる」
「元締なのに知らんぷり同然の
日本野球機構も、どうかしている」
広島のコラムは優しい。
「野球選手である前に、
社会人であることだけは
断ち切ってほしくはない」。
中田翔自身のために、
謹慎の時間をとったほうがいい、
と私は書いた。
一方、愛媛新聞の巻頭コラム「地軸」
タイトルは「横綱の口上」
今日から大相撲秋場所が始まった。
「注目は何といっても新横綱照ノ富士。
横綱白鵬は所属部屋で
新型コロナ感染者が出たため休場し、
いきなり一人横綱として重責を担う」
4年半ぶりに誕生した新横綱の、
昇進時の口上は「不動心」。
四字熟語ではなくて、
三字熟語。
「けがや内臓疾患で
大関から序二段まで転落した」
「奇跡的な復活を支えた
何事にもぶれない精神で、
コロナ禍を吹き飛ばすような
活躍を期待したい」
コラムは歴代横綱の口上を披露する。
貴乃花は「不撓不屈」と「不惜身命」。
困難にもひるまず、
相撲道に専念する意思を示した。
若乃花は「堅忍不抜」。
我慢強く耐え忍ぶという意味。
白鵬が「精神一到」、
日馬富士は「全身全霊」。
ここで政界の「横綱」、
退陣する菅義偉首相。
最期の口上で使ったのは、
日馬富士と同じ、
「全身全霊」。
ところが退陣直前、
花道を飾る異例の外遊に出る。
四カ国首脳会談。
米日豪印のトップ会談。
会議に出ても退陣する首相の発言は、
はなはだ軽いだろうけれど。
コラム。
「日本学術会議の会員任命拒否など、
菅政権下で起きた数々の問題も
片付ける気配はない」
「言葉とは裏腹に、
もはや”死に体”の様相だ」
同感だ。
「土俵際でも誰よりも踏ん張って
体を残すのが横綱の誇りなのだが」
退陣する総理へのコメントは厳しい。
しかし、問題を起こしたとき、
絶頂期から去るときこそ、
その人間の真価が問われる。
四字熟語の「前後際断」と「全身全霊」。
言葉の意味を真に知覚して、
その通りに行動すれば、
間違いはない。
問題は、誰しもなかなか、
「言行一致」ができないことだ。
「言行不一致」と、
五字熟語になってしまうことだ。
〈結城義晴〉