大衆の不幸や災害につけこんで、
「一時の儲け」を狙うバカは、
店の永遠の繁栄を捨てる者である。
人というものは、
ある一時の親切をも
生涯に感じるものなのである。
それなのに、何故、
人々が困っている時、
親切を尽くすという
ほんとうの商売ができないのか。
そんなことがあるはずはない。
諸君には、毎日、
お客からありがとうと言われ、
諸君もまた、心から
お客にありがとうと言える
商売ができるはずである。
それが店を育てるのに必要な、
君たち誰でもが持っている
商売繁盛の原動力である。
非常の時なればこそ、
大衆にその店の心が
すぐわかるのだが、
ほんとうは毎日、
来る朝も来る日も、
親切で心温まる
商売であるべきだ。
商売は
人と人との心が
じかに触れあうことの
できるものである。
資本が店を有力にすることはない。
店が無力か有力かは、
実にその商売が
無情に行われるか、
美しい心で行われるかによって
定まるのである。
〈倉本長治〉
『あきないの心』から。
サブタイトルは、
繁盛を招く倉本長治の88のことば。
倉本長治は1889年生まれ、
1982年没。
日本商業の近代化を、
グランドデザインした人。
商業界の創設者。
その精神がここに記されている。
本書は2012年、商業界刊。
東日本大震災の翌年。
故倉本初夫商業界二代主幹によって、
編纂された。
その初夫は翌2013年12月15日に逝去した。
88の言葉の中の71番目の言葉。
COVID-19パンデミックが、
終焉を迎えつつある今、
「一時の儲け」を狙ったバカは、
店の永遠の繁栄を、
自ら捨てた者だ。
――儲かることと、
繁盛することとは
別である。
これを一致させるのが、
商人の正しい姿である。
利益とは、
社会にために尽くす
物質的、精神的な
種火のようなものであり、
清く美しいものなのである。
長治は諭す。
「儲けは目的ではない」
真理だ。
〈結城義晴〉