藤井聡太・19歳。
第34期竜王戦第4局。
豊島将之竜王(31歳)を、
4連勝で破って、
竜王位を獲得した。
これで将棋四冠。
昨年度に獲得した棋聖、王位は、
防衛を果たして2期連続の王者。
それに叡王と竜王を、
棋界最高峰の豊島から奪取して、
4つのタイトルを手中にした。
豊島は無冠となった。
竜王位は名人位と並んで、
最も価値と名誉のあるタイトルだ。
残るは渡辺明(37歳)がもつ名人と棋王、王将。
そして永瀬拓也(29歳)の王座。
山口県宇部市、
ANAクラウンプラザホテル宇部。
読売新聞主催。
竜王戦は二日制で持ち時間それぞれ8時間。
最終第4局は両者得意の角換わり戦。
先手の豊島竜王は、
AIで研究済みの手順を繰り出し、
初日午前中にずんずん手が進んだ。
その後、豊島が仕掛けた局面で、
1日目が終わって藤井が封じ手。
2日目の対局再開後、
豊島が懸命に攻めをつなぎ、
藤井が頑強に受ける展開。
AIの形勢評価は、
豊島に行ったり、藤井に来たり、
形勢は揺れ動いて、
難解な局面が続いた。
そんな中で優勢を保持していた豊島が、
趣向を凝らした「先手3五桂」を放った。
しかし結局、これが敗着となって、
藤井が見事に勝ち切った。
最後は豊島の3五桂が、
皮肉なことに自分の王将の逃げ場を塞いで、
敗着を印象づけた。
プロ将棋界は序列の社会である。
その序列において、
藤井は四冠となって、
渡辺明三冠を抜いて、
トップとなった。
記者会見の藤井聡太。
「王を獲得することができて、
重みを感じます」
序列に関しては、
「身の引き締まる思いです」
謙虚そのものだ。
自分の将棋については、
「危機感を持ってやっています」
将棋とは何かとの質問に、
「どれだけ考えても分からないもの。
新しい発見を与えてくれるもの」
コロナ禍のこの2年。
タイトル戦には6回出場して、
五番勝負と七番勝負をすべて勝利。
合計21勝4敗で、勝率8割4分。
さらに王将戦挑戦者決定リーグでも、
現在は4勝無敗。
挑戦権はほぼ藤井のものだ。
その王将は現在、渡辺明。
藤井は14歳のデビューのころから、
長考派でだった。
考えることが楽しくて、
時間を忘れるといった風だった。
十七世名人谷川浩司(59歳)によると、
藤井の棋士としての最大の強みは、
「長い時間集中して考えられること」
しかし藤井はそのために、
持ち時間を使い切って、
秒読みに追われた。
それでも妙手を見つけ出し、
正確な読みで勝つ切っているが、
指し手を間違える場面が、
ないわけではない。
「時間の使い方は課題」と、
本人も自覚していたが、
今年に入ってなんと、
公式戦にデジタル時計を持参して、
脇に置くようになった。
こまめに時間を確認し、
極端な長考が減った。
勝負に徹する意志が、
さらに強くなったようだ。
今年1月末、藤井聡太は、
名古屋大学教育学部付属高校を、
卒業1カ月前に自主的に退学した。
並々ならぬ決意である。
四冠達成者の一人・羽生善治九段(51歳)は、
「今回の竜王戦は、
序盤の深い分析、
中盤の細かい駆け引き、
終盤の鋭い切れ味と、
実に高度な内容の対局が続き、
ふさわしい内容のシリーズでした」
私もアベマTVで見ていて、
コロナ禍中の藤井聡太の、
異様なまでの充実を感じた。
天才ぞろいのプロ棋士たちが、
自分の得意分野の若い後輩を、
例外なく「凄い、すごい」と評する。
そして藤井と対戦したいと懇願する。
こんな天才と同じ時代に生きる。
幸せなことだと思う。
一方、日経新聞の「私の履歴書」
今月は中嶋悟さん(68歳)。
元F1レーサー。
そのF1初挑戦の1987年。
中嶋、34歳。
開幕戦はブラジル・リオデジャネイロ。
ロータス99Tのニューマシンに乗って、
見事、7位でフィニッシュ。
優勝はマクラーレンのアラン・プロストだった。
中嶋のコメント。
「正直、順位はどうでもよかった。
ロンドンからいきなり南半球に来て、
体が順応できていなかった面があった」
「一番の収穫は、
リオの高温にへべれけになりながら、
完走できたことだった」
「それまでもフィットネスは
必要に応じて鍛えていたけれど、
必要と考えたものが
想像の範囲を出ていなかったことを
早速思い知らされた」
「実際に痛い目に遭って、
あれも足りない、これも足りないと
気づかされた」
「”10″のことをやれと言われたら、
“12”をやらないと、
ここでは戦えない」
〈日経電子版より〉
まず、集中して考えられること。
そして10では足りないことを、
12までやれること。
天才たちがそれをやりきる。
藤井聡太の集中力は、
まったく不思議なものだが、
仕事に必要なことも、
集中力である。
〈結城義晴〉