大阪府東大阪市。
㈱万代本社に併設された繁盛店。
万代渋川店。
万代知識商人大学の講義のときには、
ランチはいつもここで買って食べる。
その入り口の一丁目一番地。
青果部門は店の顔。
毎週木曜日開催、
「バイヤー“推し”の一品」
左から、マイタケ1パック88円、
アスパラ1束78円、
豆苗1袋68円、
そして淡路のタマネギ1袋298円。
その裏の島陳列はミカン一色。
万代限定販売の秀島みかん398円。
次の島は本日のおススメ。
赤い毛氈にぶどう。
ミックスぶどう1パック398円。
そして菌茸類のエンド。
真ん中はブナシメジ1パック88円、
右はミックスマッシュルーム1パック298円。
顧客に顔を向けているのは、
アメリカ産松茸2本で980円。
その裏側は白菜。
丸もの、ハーフ、クオーター、
きちんとSKUをつくる。
万代は旨いものが安い。
しかも買いやすい容量設定がある。
店舗右奥のコーナーが水産部門。
島型で中央が作業場。
角にはサーモン。
裏側に対面方式の丸魚売場。
左はサンマ1尾200円、
右は天然真鯛1尾580円。
それから店舗奥中央が惣菜売場。
畜産売場からコーナーを曲がって、
日配品売場へ。
実にシンプルでオーソドックスなレイアウトだ。
万代独特の特売告知。
11月16日は「大感謝祭」、
11月28日は「ビックリ価格!」
毎月、知識商人大学の講義のときに、
定点観測する。
万代の出す品目ごとの価格帯が、
関西のスーパーマーケットの値ごろ感となる。
だからこの定点観測は、
私の価格感覚を磨くことになる。
しかしサンマ200円は今どき、安い。
北海道新聞の巻頭コラム「卓上四季」
昨日のタイトルは、
「さんまの苦み」
あはれ
秋かぜよ
情(こころ)あらば
伝へてよ
―― 男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食(くら)ひて
思いにふける、と。
佐藤春夫の代表作「秋刀魚の歌」は、
このフレーズで始まる。
谷崎潤一郎の妻千代を巡る、
佐藤と谷崎の愛憎模様が、
背景にある。
一人夕食のさんまを食す男は佐藤自身。
思い出す団欒(だんらん)は、
主(あるじ)不在の谷崎邸。
「捨てられんとする人妻」と
「父を待ちし女の児」
谷崎の妻千代と娘の鮎子。
青いみかんの汁をかける、
男の故郷の習わしに従って、
女はみかんを用意する。
サンマをねだる幼子。
あはれ、
人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と
食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さき箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸をくれむと
言ふにあらずや。
谷崎に捨てられんとする千代とその娘。
妻にそむかれた佐藤。
さんま、さんま、
さんま苦いか塩(しょ)っぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふは
いづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。
谷崎は佐藤に千代を譲ると約束し、
三人の連名で、知人たちに、
協議成立の挨拶通知を出す。
それが大きなセンセーションを巻き起こした。
昭和5年(1930年)8月19日。
世に喧伝される「小田原事件」、
谷崎潤一郎の「妻譲渡事件」。
佐藤の詩では、
サンマが狂言回しの役を担う。
サンマは江戸時代中期に、
大衆魚として定着した。
以降、秋の旬の味として、
庶民の食卓を支えた。
コラム。
「この”秋刀魚の歌”が鯛や鰻であったなら、
これほど憐憫(れんびん)の情を
誘うこともなかったのではないか」
秋刀魚だから歌になった。
近年のサンマ不漁。
10月までの全国漁獲量は、
過去最低の9440トンだった。
だから万代の1尾200円は、
今どき、安い。
海水温の変化による漁場の移動と、
外国船による公海などでの先取り。
アジア8カ国・地域は2月、
総漁獲枠40%削減で合意した。
資源回復に向けて、
一層の協力の道を探る時だ。
恋多き男谷崎は、
佐藤に妻を譲ると言いつつも、
その言を翻して、
佐藤は谷崎に絶交を告げる。
しかし谷崎と佐藤の確執はやがて、
谷崎と千代が離縁することで決着した。
その後、佐藤は千代と鮎子とともに、
円満な家庭を築いた。
売場に並ぶサンマを見ると、
いつも思い出す。
さんま、さんま、
さんま苦いか塩っぱいか。
いま、そんな詩情は薄い。
〈結城義晴〉