㈱吉野家前常務取締役の「不適切発言」。
舌禍事件には違いないだろうが、
つい、言い過ぎたという印象ではない。
「生娘をシャブ漬け戦略」
日頃からこんな言い回しをしていたのだろう。
そしてこの言い回しを、
自分で気に入っていたに違いない。
「田舎から出てきた
右も左も分からない若い女の子を
無垢(むく)、生娘なうちに牛丼中毒にする」
それを「戦略」と称した。
早稲田大学の社会人向けマーケティング講座で、
トップバッターとして登場した、
その講師としての発言だった。
受講生のSNS発信で明らかになった。
吉野家も泥を塗られた。
早稲田も汚名を着せられた。
情けないことだけれど、
常務に人事するときの、
講師にキャストするときの、
「人を選ぶ目」が曇っている。
ひどく安易だ。
そして何より、
「マーケティング」という概念が、
傷つけられた。
ちょっとした実績を上げたからといって、
その考え方や方法を、
「マーケティング」と認めてはいけない。
「教養」の意味は、
「学問・知識を
しっかり身につけることによって養われる、
心の豊かさ」とある。
文章を書くとき、
言葉を発するときに、
「アナロジー」が使われる。
「類比」と言われる。
創造性のある発想ができる人間は、
共通してこのアナロジー思考に長けている。
しかし当該の前常務は、
ロイヤルカスタマーになってもらうことを、
「シャブ漬け」と言い換えた。
若い女性をターゲティングする、
その対象を「生娘」と言い、さらに、
「田舎から出てきた右も左も分からない」と、
解説を加えた。
類比が妥当ではない。
「心の豊かさ」や「奥ゆかしさ」は、
微塵も感じられない。
ドナルド・トランプや、
ウラジーミル・プーチンのような存在が、
必要以上に露出してきて、
「フェイク」を連呼する姿が、
社会に影響を及ぼしているのかもしれない。
「嫌な渡世でござんす」
仕事や商売をするうえで、
この手の「マーケティングもどき」は、
断じて退けねばならない。
それを強く思った。
吉野家も早稲田も好きだからこそ、
それを強く思った。
〈結城義晴〉