朝日新聞「折々のことば」
第2413回。
正義は或(あ)る日突然
逆転する。
正義は信じがたい。
(やなせたかし『アンパンマンの遺書』から)
「戦中の軍隊生活と戦後の社会を生きて、
このことを骨身で悟った」
戦前の大日本帝国と、
戦後の日本国。
正義は逆転した。
ある会社の経営が苦しくなって、
別の会社に買収される。
場合によっては、
その会社の正義も、
正反対になるかもしれない。
「量販店」のなかで、
「質販店」を志向した西友が、
ウォルマートの傘下に入った。
堤清二の正義と、
サム・ウォルトンの正義。
共鳴し合うところもあっただろうが、
ぶつかり合うところが多かったに違いない。
やなせたかし。
「”正義のために戦うのだから
生命をすてるのも仕方がない”
のでは断じてない」
これは戦前の空気への反論。
「命を捧げうる
別の正義を謳(うた)うのも
自分は拒む」
これは戦後のムードへの拒否。
「完全無欠の人だけに可能な
大げさな正義ではなく、
飢えた人がいれば
そっと一片のパンを差し出すこと。
それがアンパンマンの原点だ」
これは商人の正義に通じる。
やなせたかしさんに感謝したい。
倉本長治。
「”現代は病める時代”だという人がいる。
世界が病んでいるのであろうか。
そこに住む人間が
病んでいるのであろうか」
60年も前の文章だ。
あのころも、
「病める時代」と言われていた。
考えてみると、
「病める時代」は続いている。
「私は、病める人間たちが
その世界を作っているから、
そして、
病んでいる人間たちの世界だからこそ、
その時代そのものを
病めりと見るのだと思う」
病める人間に原因がある。
ウラジーミル・プーチンも、
病める時代を作っている、
病める人間だ。
それに同調する国家元首が少なくない。
「人間は、腹が痛んだり、
腕が曲がったりすると、
すぐ大騒ぎして医者に駆けつけるが、
自分の心がやんだり、
ヒン曲がってしまっていても、
いっこうに気がつかぬもののようである」
自戒を込めて、
同感したい。
「そして、その曲がった心で世界を眺め、
ああ時代は狂ってしまったという」
こんな滑稽なことはないが、
曲がった心が、
時代が狂ってしまった、
と言わせる。
病める人間が、
時代は病んでいると言い放つ。
「曲がっているかどうかを知るには、
はじめに正確な
レンズやモノサシなどが要るが、
それを観測する心や目のほうが、
まず真っ直ぐでなくてはダメだろう」
「商売のあり方一つについても、
何が正しいか正しくないかを
判断するのに一番大切なことは、
レンズやモノサシよりも、
やはりあなたの心が、
真っ直ぐであることである」
拙著『Message』より。
まっすぐな人
まっすぐな人の
まっ正直な商い。
不思議に繁盛する。
意外に成長する。
まっすぐな人たちの
まっ正直な商い。
〈結城義晴〉