1ドル148円80銭台。
瞬間的な為替レートだが、
1990年8月以来、
32年ぶりの円安・ドル高。
これはもう150円を超えるに違いない。
私がはじめてアメリカに行った1978年は、
1ドル195円だった。
その1978年11月、
ジミー・カーター大統領が、
大胆な経済政策を打ち出して、
為替市場への協調介入を強化し、
公定歩合を8.5%から9.5%へ1%引き上げた。
「カーター・ショック」と言われた。
カーター・ショックによって、
1982年11月には278円台までドルが上昇。
しかし1985年の「プラザ合意」で、
ドル高に終止符が打たれた。
プラザ合意はドナルド・レーガン政権下で、
米国と日本、そして欧州5カ国が合意した、
ドル高是正策のことだ。
その舞台は、
マンハッタンのプラザホテルだった。
この国際協働介入によって、
1987年12月にはドルは、
1ドル121円台まで下落。
1995年には79円のドル安・円高になった。
その後、2005年に117円、
さらに2011年に76円。
しかし今、148円となって、
1ドル150円の大台が視野に入った。
感覚的に言えば、
プラザ合意のころまで戻ったことになる。
今、「第2のプラザ合意」という案も出てきた。
財務省のコメント。
「過度の変動が繰り返されるときには
断固たる対応を取る用意ができている」
しかしそれは日本独自の対応では足りない。
日経新聞電子版。
「円安の壁」と「バカの壁」
日経新聞コメンテーターの西村博之さんが書く。
「円安×インフレで
途上国から先進国に来た気分」
海外旅行に行った人の言葉。
シンガポールで入った王将は、
「餃子セットが2000円!」
歯医者では20分話しただけで2万円。
マレーシアでも「物価は日本並み」
「もう以前のようには国外に出られない」
日本という発展途上国から、
アジアの先進国に来た気分になったそうだ。
コロナによる鎖国が解かれたところへ、
「円安の壁」が出現した。
「バカの壁」は養老孟司東大名誉教授の著書。
表層的な情報によって、
「わかったつもり」になる風潮を戒めた。
西村さん。
「”円安の壁”は”バカの壁”に転じうる」
コロナ禍の影響が一服したアジア地域では、
人々の往来が再開し、
各国の企業に接触したアナリストが、
続々と詳細な報告を上げてきた。
一方の日本。
「最新の技術や市場動向から後れをとり、
それに気付いてもいない」
海外留学した日本の学生の数。
2018年度の約11万5000人から、
20年度は1487人に激減。
「実際に行って、見て、経験して、
“知ったつもり”でない生きた知識を得たい
若者の壁はぐんと高くなった」
小売業の海外視察も同様だ。
「”円安の壁”が長居すれば、
“諦めの壁”に変わりかねない」
日本政府と日銀にどれだけの力があるか。
「頼みますよ!!」
さて、日経新聞本誌の記事。
「小売り・外食、
巣ごもり消費一巡で明暗」
コロナ禍の巣ごもり消費が一巡し、
消費系企業の業績で明暗が分かれている。
その2022年6~8月期決算。
食品スーパーマーケット。
巣ごもり消費の一巡や光熱費の上昇が重荷となり、
12社の純利益の合計は35%減の109億円だった。
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス。
純利益は55%減の5億9500万円だった。
藤田元宏社長。
物価高で消費者の節約意識が高まる中、
価格を据え置いた。
しかし、「顧客が競合に流出して
大きな客数流入にならなかった」
ホームセンターも巣ごもりの反動。
9社の純利益は計151億円と39%減。
百貨店6社の最終損益の合計は、
173億円の黒字に転換。
前年同期は24億円の赤字だった。
高島屋では、
3~8月の高級ブランドの売上げが、
19年比で5割増えた。
第2四半期は81億円の黒字。
前年同期は30億円の赤字。
外食11社の純利益の合計は、
44%増の46億円だった。
吉野家ホールディングスは、
32億円と前年同期の2倍となった。
スーパーマーケットとホームセンターが、
巣ごもりの反動で減益し、
百貨店とフードサービスが
黒字転換、あるいは増益。
明暗が分かれた。
記事は最後に、
イオンの吉田昭夫社長の言葉を紹介する。
「生活防衛意識と価格への感度は
高まっている」
しかしそれはコロナ前に戻り、
さらに厳しくなった。
ただし高島屋など、
コロナ前以上に高額品が売れた。
「禁欲円」の消費に耐えられず、
「享楽円」が爆発した。
そしてこれもほんの一部の現象で、
生活防衛意識と価格コンシャスの、
「禁欲円」消費が日本を覆っている。
「円安の壁」は高くて厚いけれど、
なんとか「バカの壁」は避けなければならない。
〈結城義晴〉