朝日新聞は毎日、
家に届けられる。
拾い読みしかしなくなった。
けれどこれだけは目を通す。
「折々のことば」
その第2561回。
過去は新しく、
未来はなつかしいもの
なのかもしれませんね。
(佐治晴夫)
逆説的な言い回しだ。
佐治晴夫さんは1935年生まれの物理学者。
立教大学理学部物理学科を卒業し、
東京大学大学院物理学専攻。
理学博士。
東京大学物性研究所、松下電器東京研究所を経て、
NASA客員研究員や大学教授を歴任。
鈴鹿短期大学学長から同名誉学長へ。
「今が満たされた境遇でないと、
人はつい過去のせいにする」
「だが記憶は
その時々の心情によって
塗り替えられるもの」
「過去の評価も
これからの自分の身のふり方で決まる」
「つまり
“これから”が
“これまで”を決めるのだ」
未来が、過去を決める。
「だから無闇(むやみ)やたらと
過去にこだわるのではなく、
“これから”を見つめ、
一歩踏み出そう」
随想集『この星で生きる理由』から。
これからが、これまでを決めると考えれば、
ずいぶん楽になる。
これまでに寄りかかって生きることも、
意味がなくなる。
未来が過去を決めると思えば、
未来に向かって生きることができる。
とてもいい。
さらに「折々のことば」
第2523回(2022年10月10日)
本当に印象が深い場合は
感想が出るより前にまず、
ポカンとするのではないか。
(内田義彦)
この感じ、わかる。
同感だ。
だから、
「そう簡単に感想を出してはいかん」のだ。
「何かを読んで、
深い衝撃を受けた時は、
それが意味するところを
すぐには掴(つか)めず、
むしろモヤっとなるもの」
何かを見たときも、
何かに出会ったときも、
ポカンとする。
「そういう気持ちを
従来の言葉で急いで表現せず、
その意味が見えてくるまで
モヤっとしたまま持ち続けることが大事だ」
最初にゴッホの本物を見たとき、
そんな感じがした。
最初にビートルズを聴いたときも、
ポカンとした。
最初に、アメリカに行って、
ハイウェイや、
ショッピングセンターや、
スーパーマーケットや、
チェーンストアを見たとき、
ポカンとした。
ありきたりの言葉では、
言いたくなかった。
1981年の講話「読むこと きくこと」
(『内田義彦の世界』所収)から。
内田義彦さんは経済学者。
1913年、名古屋生まれ、1989年没。
経済学史、社会思想史。
『資本論の世界』『経済学の生誕』を著し、
アダム・スミス、カール・マルクスの研究で知られる。
この言葉は真理なのだと思う。
最初にオースチンに行って、
ホールフーズの店に入ったときも、
ポカンとした。
言葉では表せないと思った。
そんな未来型の店に遭遇したときにも、
未来が過去を決めることを実感する。
そんな店をつくってほしい。
そんな商品もつくってほしい。
私もそんな本を書きたい。
〈結城義晴〉