結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2022年12月03日(土曜日)

藤井聡太・中田英寿・堂安律・三苫薫の「内なる青さ」と「成熟」

第35期将棋竜王戦。

藤井聡太竜王の初めての防衛戦。
20歳。
藤井聡太
挑戦者は広瀬章人八段。
35歳。

かつて独特の四間飛車穴熊戦法で、
王位のタイトルを奪取した。

その後、当時の羽生竜王を破って、
竜王位も獲得した。
つまり天才の強豪。
現在、A棋士。

この七番勝負第5局までは、
藤井の3勝2敗。

第6局も角換わり腰掛け銀となった。

初日が終わって、
広瀬が封じ手。

二日目は封じ手に対して、
藤井が4六飛車と浮いた。

これはすごい手だった。

AIはそれまでの優勢度を、
藤井の68%、広瀬32%と示していた。

しかしこの4六飛車で、
50%対50%になってしまった。

しかし藤井聡太はAIを超えていた。

その後、飛車を取らせている間に、
藤井が圧倒的な優位に立ってしまった。

評価は70対30へと変わった。

「この組み立てを出来る人は
他にいないと思います」

解説の長岡裕也六段は舌を巻いた。

報知新聞はこの一手を、
「堂安律のミドルシュート」と称した。
堂安1

凄い将棋が指された。
素晴らしい棋譜が残された。

そのFIFA World Cup Qatar 2022。
いよいよ決勝リーグが始まる。
日本の若者たちの活躍を期待しよう。

水を差すつもりはまったくないが、
詩人・茨木のり子。

球を蹴る人
――N・Hに――

二〇〇二年 ワールドカップのあと
二十五歳の青年はインタビューに答えて言った
「この頃のサッカーは
商業主義になりすぎてしまった
こどもの頃のように
無心にサッカーをしてみたい」
的を射た言葉は
シュートを決められた一瞬のように
こちらのゴールネットを大きく揺らした

こどもの頃のサッカーと言われて
不意に甲斐の国 韮崎高校の校庭が
ふわりと目に浮ぶ
自分の言葉を持っている人はいい
まっすぐに物言う若者が居るのはいい
それはすでに
彼が二十一歳の時にも放たれていた

「君が代はダサいから歌わない
試合の前に歌うと戦意が削れる」
〈ダサい〉がこれほどきっかりと
嵌った例を他に知らない
やたら国歌の流れるワールドカップで
私もずいぶん耳を澄したけれど
どの国も似たりよったりで
まっことダサかったねえ
日々に強くなりまさる
世界の民族主義の過剰
彼はそれをも衝いていた

球を蹴る人は
静かに 的確に
言葉を蹴る人でもあった
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茨木のり子は、
1926年生(大正15年)生まれ、
2006年没。
詩人、エッセイスト、童話作家、脚本家。

中田英寿は若かったけれど、
哲学を持っていた。

茨木のり子の代表作。
教科書に載って、
多くの子どもたちに読まれた。

わたしが一番きれいだったとき

わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達がたくさん死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり
卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように

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最後に朝日新聞「折々のことば」
11月27日の第2569回。

人生は青いほうがいい。
熟れないほうがいい。
最後まで青いままで行く。
(安藤忠雄)
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編著者の鷲田清一さん。
「建築家は、
建設費を自身で引き受けてまでして、
子どもたちの図書館を建て、
各地で植樹をする」

「いくらバカと言われても、
いつか何かの実がなると信じ、
行ける所まで行く、
そんな人間もいないといけない」

「まあ言うたら私は、
暴走族みたいなもんやな」

鷲田さん。
「内なる青さをきちんと護(まも)りきれずに
成熟などないのかも」
(NHK・Eテレの「日曜美術館」より)

そう、藤井聡太も、
中田英寿、堂安律や三苫薫も、
若き日の茨木のり子も、
内なる青さを護りながら、
すでに成熟していたのだ。

頼もしいかな、
日本の若者たち。

ありがとう。

〈結城義晴〉

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