3年ぶりにアメリカに行って、
一番驚いたこと。
ChatGPT。
ニューヨークに在住する藤森正博さんは、
今、ネバダ州リノで通訳の仕事をしている。
サンフランシスコには、
車で5時間かけて会いに来てくれた。
一緒にゴルフをした。
ゴルフは私が教えた。
食事もした。
藤森さんは私に、
ChatGPTを教えてくれた。
私は文章を書くことを、
仕事のひとつにしている。
だからこそ衝撃を受けた。
日本の新聞では「チャットGPT」と表現する。
アメリカの人工知能(AI)の研究所「OpenAI」が、
研究して開発した「文章を書くAI」である。
〈ChatGPTのアイコン〉
質問の単語や言葉を打ち込むと、
AIが情報を集め、言葉を選んで、
結構、流ちょうな文章で回答する。
藤森さんは英語で質問し、
チャットGPTは英語で答えた。
それを翻訳ソフトで見せてくれた。
回答の英語は普通の文章で、
翻訳はちょっと変だったが、
それでも意味はよくわかる。
「Chat」はスマホやパソコン上で、
リアルタイムで対話すること。
GPTは、
「Generative Pre-trained Transformer」の略。
直訳すると、生成的・学習済み・変換機。
昨2022年11月30日に公開されて、
2カ月で使用者が1億人に達した。
TikTokは9カ月、
Instagramは2年半かかった。
その便利さによる普及スピードは、
驚くばかり。
たとえば、
「流通」「未来」「予測」と言葉を入れる。
同じように「流通の未来を予測する」など入れる。
するとAIが膨大な情報を集めて、
それを整理し、言葉を選んで、
長い説明の文章を書いてくれる。
内容はごくごく普通のものだが。
マスコミならば、
普通の力量の記者は必要がなくなる。
プレスリリース丸写しのライターは、
確実に職を失う。
大学や大学院のレポートや論文も、
成績がBやCのものはどんどん書きあがる。
ただしオリジナリティはない。
教授や先生が出した質問の言葉を、
みんなが同じように打ち込んだら、
同じレポートが出来上がってしまう。
実務家もレポートを提出するとき、
これをつかえばわけなく文章ができる。
小説家や作家も使うかもしれない。
脚本などでは大いに活用されるだろう。
懸賞小説なども、
出品作が増えるだろう。
大学教授の仕事のひとつは、
提出された論文やレポートの、
真の価値を見出すこと。
そして著作権違反を犯していないかを、
見きわめること。
それが難しい仕事となる。
朝日新聞「天声人語」がこれに触れた。
2月23日の記事。
葦沢かもめ作『あなたはそこにいますか?』
日経新聞の星新一賞で優秀賞を受賞。
東北大学で生物学を学び、
京都大学大学院へ進学した医科学博士。
民間企業のデータサイエンティスト、
趣味でAIを使って小説を執筆。
葦沢かもめは、現実に、
AIを創作の一部に取り入れている。
締め切り直前の3週間で101編も書いた。
受賞作はそのうちの一つだった。
天声人語のコラムニスト。
「日々もだえながら小欄を書く身とすれば、
心穏やかでいられない」
同感だ。
葦沢かもめの作品の中で主人公が語る。
「創作活動で大事なのは
何かを生もうとする意志であり、
確率論からAIがつなげた単語の列は
『小説における表現ではない』
『何でもいいから、楽をしたい。
それは創作活動に対する心構えの欠如だ』」
同感だ。
コラムニストも続ける。
「拍手を送りかけた時、
葦沢さんが執筆の過程を
ネットで公開しているのを見つけた。
目が丸くなった。
まさにこのセリフ、
AIの力を借りて書いたそうだ」
チャットGPTに打ち込む、
質問のユニークさが内容のレベルをつくる。
ChatGPT。
使いようによっては、
仕事は楽になる。
しかし楽をして考えたことは、
その人自身の成長を促しはしない。
藤井聡太王将と羽生善治九段が、
王将戦を闘っている。
これまでのところ2勝2敗。
そして第5戦が今、闘われている。
藤井はAIを駆使して、
天才的な棋力をもつに至った。
レジェンド羽生は低迷していたが、
最近はAIを使って復活した。
しかし彼らが本当に強いのは、
AIを使った後の力だ。
AIを自分の成長に役立てた。
ChatGPTもそうなるに違いない。
何でもいいから、楽をしたい。
それは人間の活動に対する、
心構えの欠如だ。
〈結城義晴〉