安倍晋三元首相は、
昨年の今日、銃撃され、死去した。
謹んでご冥福を祈りたい。
死去の直後の参議院選挙は、
与党の圧勝。
ロシアのウクライナ侵攻は、
泥沼化し、エネルギー危機が訪れた。
多くのメディアで、
安倍政治とその後の総括が展開される。
政治学者の御厨貴さん。
朝日新聞に語った。
1951年生まれ、東京大学名誉教授。
専門は近現代日本政治史。
政治家などの口述記録を歴史研究に生かす、
いわゆるオーラルヒストリーの第一人者。
「あの瞬間、日本の政治が大きく変わる、
激動の1年を迎えるのではないかと
予測しました」
「日本の政治が混沌とするんじゃないかと
当初は思いました」
「しかし、そうはなりませんでした」
「確かに安倍氏という存在は
いなくなったけれど、
そのまま政治は凍結されているようです」
「そのまま凍結」なるほど。
「岸田文雄首相のもとで
政治が奇妙に『行政化』され、
躍動感が失われた結果だといえるでしょう」
「政治の行政化」を、
御厨さんは指摘する。
賛成だ。
モンテスキューの三権分立。
立法権、行政権、司法権。
国会と内閣と裁判所。
しかし「安倍後」は、
政治が行政化してしまった。
つまり立法権の本質が薄弱化した。
それは三権が分立していない状態である。
内閣の官僚化である。
「良きにつけ、悪しきにつけ、
安倍氏の政治は、彼なりの
イデオロギーや思い入れに
深く彩られていました」
「それに対して岸田氏は状況追従型で
やらなければならないことを
ただ進めているようです。
そこには情熱も深い思い入れも見えません」
「これは理想を掲げる
本来の意味での政治ではなく、
行政のやり方です」
企業の経営も行政化してしまったら、
その本質を失う。
「政治的な動機をむき出しにせず、
まるで大きな政治課題ではなく
小さなことをやっているような形で、
あまり力を込めずに説明を繰り返します」
「安倍氏も菅義偉前首相も、
思いがあるだけに、
つい力を込めて言い募ってしまうんですが、
岸田首相にはそれがありません。
淡々と説明して打ち切りますね」
それでいいのだろう。
「いま政治に求められているのは、
安倍氏が進めてきた分断の政治の
帰結があらわれていることを直視して、
抜本的な対策を示すことです」
「安倍氏の政治手法は
敵と味方をはっきりさせて、
対決姿勢を鮮明に打ち出す政治でした」
「対立と分断をどうすれば緩和できるのかが、
問われています」
「右肩上がりの時代は終わり、
世界の中で日本の立場は
とても難しくなっています」
「実は90年代からもう経済の成長は難しい
ということが分かっていました」
「それなのにずっと
問題は先送りされています。
ちょうどその時代に、
私たちは政治改革に随分
時間とエネルギーを費やしましたが、
そのころから日本経済は縮小し、
埋没を続けています」
「明治以来の日本は
国家として大きくなること、
発展をすることを主眼に
さまざまな政策を進めてきましたが、
このように小さくなることへの対応は
したことがありません」
「成長しているときは様々な問題を
成長と分配が解決してくれますが、
知恵を絞らなければならないのは
縮小するときです」
会社も同じ。
だからチェーンストアは、
なんとしても店数を増やす。
あるいは事業を増やす。
成長モードにもって行く。
国も同じだ。
けれどその成長の方向は、
かつてとは異なる。
それがわからない。
政治家にも官僚にも。
だから今、行政化しているのだとも考えられる。
御厨さん。
「明治以来、この国を支え、
55年からは自民党と政策を担ってきた
霞が関の官僚組織も
根っこから劣化していると思います」
「例えば日本の国土計画については
『全総』と呼ばれた全国総合開発計画を
60年代からほぼ10年ごとに策定し、
大きな絵を描いていました」
グランドデザインだ。
「旧通産省も世界で競争できる産業や
中小企業政策などの大きなプランを、
有識者や族議員と呼ばれた政治家の力などを
総動員して練り上げていました」
「しかし今世紀に入ってから
そうした霞が関の機能は
見えなくなっています」
「いまは護送船団方式を組めず、
業界への行政指導もできなくなっていますし、
時代が変わっているのは事実でしょう。
かつてと違って大学生が官僚になることを
希望しなくなっているのも明白です。
官僚組織もこのままでは危うい状況です」
悪しき官僚化である。
安倍元首相死去の1年で、
そんなことが明らかになった。
少なくとも小売業やサービス業。
チェーンストアや商業の世界は、
そんな隘路にはまることなく、
未来志向でありたい。
そのために必要なことは、
現時点の総括である。
私は商業の近代化は進んだが、
いまだ現代化は成し遂げられていないと思う。
商業現代化の姿を明らかにする。
そのこと自体が、
産業のエネルギーになりうる。
その一端を担うのが商人舎でありたい。
その一助となるのが私たちの役割である。
安倍晋三一周忌に、
そんなことを思った。
〈結城義晴〉