コロナは時間を早めた。
ダラスでそれを再確認した。
商人舎US研修会スペシャルコース2日目。
ホテル内のミーティングルームで、
早朝セミナーを開催。
アメリカ視察の基礎知識と戦略的な話を中心に講義した。
周囲にはマンションや戸建てが並ぶ。
競合店はトムサムとホールフーズ。
アシスタントマネジャーのチェースさんが、
インタビューに応じてくれた。
34歳だが、17年間、クローガーに勤務する。
つまりは17歳の高校生の時から、
クローガー一筋に働く。
この店の客単価は約35ドル。
通常店より低いが、足元商圏が厚いため、
来店頻度は高い。
2番目も市内の店。
トムサム。
セーフウェイに買収され、
そのセーフウェイがアルバートソンと経営統合。
さらにそのアルバートソンが今、
クローガーに買収されようとしている。
売場は整っているし、一定の客数はある。
だがコンベンショナル型スーパーマーケットで、
「時代遅れ感」が漂う。
プライスカードは二重価格になっている。
クラブカード会員には割引特典がある。
顧客を囲い込み作戦だが、
売価の二重表記は顧客の信頼をなくす。
トムサムの入るショッピングセンターに、
ダイソーが出店する。
アメリカでは1ドル75セントで売る。
ダラーストアの1.5倍の売価の店だが、
人気だ。
3番目は、
ホールフーズマーケット。
オーガニックスーパーマーケットのトップランナー。
2017年にアマゾン・コムの傘下に入った。
店舗内外装の洗練されたデザインは、
マーチャンダイジングと相まって、
十二分にポジショニングの要件を満たす。
2階のレストスペースから売場を望む。
アマゾン傘下に入って、
ネット販売の構成比が増えた。
そのため客数は低下して、
やや賑わい感を喪失した。
生鮮部門など店頭の在庫も減った。
ネット顧客は大喜びで、
売上げは上がっているはずだ。
4番目はホールフーズと競う、
H.E.Bセントラルマーケット。
都市型のアップスケールタイプの大型店。
売場面積は2000坪。
ワンウェイコントロール方式を採用していて、
全部門・全売場に顧客を誘導する。
そのトップは圧倒的な青果売場。
売上高構成比は約15%くらいにはなるだろう。
そしてベーカリー売場に到着すると、
広々とした空間に、
焼き立てパンの香りが漂う。
強力なマグネット売場だ。
このセントラルマーケットには、
購買したアイテムを食べるフードコートがある。
そこで今日のランチ。
5番目は、
ウォルマート・マーケット。
1998年に開発されたスーパーマーケットだ。
「ネイバーフッドマーケット」と、
ネーミングされたが、
今、「ウォルマート・マーケット」に変更中。
青果売場は平台1基に1アイテムの品揃え。
つまり単品量販。
それはスーパーセンターと変わらない。
平台側面の価格表示は実にわかりやすい。
売場最終コーナーの主通路には、
ハロウィンをテーマにした島陳列が続く。
「アクション・アレー」と呼ばれる。
強力な磁石であり、売上げへの貢献度は高い。
このウォルマート・マーケットも、
オンライン販売の基地になっている。
そして6番目は期待の店。
トレーダー・ジョー。
例外なく、どの店も大人気を博している。
店内に一歩入ると、
ひと目でトレーダー・ジョーとわかる店づくり。
壁面上部のディスプレーは、
ハロウィン仕様となっている。
エンドにはパンプキン(かぼちゃ)がらみの商品が並ぶ。
商品はすべてセンターから供給される。
つまり全店共通。
だがプレゼンテーションは、
各店舗が独自に企画し、展開する。
280坪の店舗が今、
ハロウィン一色。
試食も復活。
それがトレーダー・ジョーの、
他社にない楽しさとなる。
7番目は、
ウィンコフーズ。
店舗面積7500㎡の倉庫型スーパーマーケット。
スーパーウェアハウスストアと呼ばれる。
スケルトンタイプの天井、
ノンフリルの店づくりに徹する。
つまり低投資。
その上でディスカウントに挑戦する。
店舗に入るとすぐに、
ウォール・オブ・バリュー。
つまり価値ある壁。
高いラック什器に、
競争価格のアイテムが連続して陳列される。
これはエンドが並んだ壁である。
ナショナルブランドアイテムに関して、
ウォルマートはいくら、
クローガーはいくら、
HEBはいくら。
ウィンコはいくらで、
これだけ節約になる。
そんな比較広告だ。
カートを使って価格比較をしている。
同じ品目がカートに詰められていて、
ウォルマート(左)はいくら、
HEB(中)はいくら、
ウィンコフーズ(右)はいくら、と比較する。
ウィンコは24時間営業で、
決済は現金かデビットカード。
クレジットカードは使えない。
低コストを武器にした安さづくりによって、
価格差を生み出す。
売上げ規模は70倍のウォルマートとも、
互角の戦いを展開する。
それがウィンコのポジショニングである。
8番目は、
クローガーマーケットプレイス。
道路を挟んでH.E.Bの新店と対峙する。
クローガーの非食品強化タイプの大型店だ。
フットボールのダラスカウボーイズは、
この地域で大人気のチームだ。
そのカウボーイズを応援するディスプレイ。
メジャーベースボールは、
テキサスレンジャース。
そのレンジャーズは地区優勝を果たした。
しかしアメフトのほうが人気がある。
だからクローガーはカウボーイズ推しだ。
それが売場全体に出ている。
顧客もそれに共感している。
非食品の中では、
自社アパレルの強化に努める。
まだ改良の余地は大いにある。
しかし隣接した化粧品の売場とともに、
女性客をターゲティングして、
クローガーのマーケティング姿勢を鮮明に出している。
ウォルマートは全客層を狙う。
そして男性客も多い。
対してクローガーは、
女性客に集中する。
マーケットリーダーと、
マーケットチャレンジャーの闘いである。
そこに割って入るのが、
9番目の訪問店H.E.Bだ。
そのフード&ドラッグ。
1週間前にオープンしたばかりの最新店である。
ダラス・フォートワース商勢圏の4号店。
クローガーと至近で競合する。
店舗右手の入口には、
ファストフードレストランのBBQ。
店内で加工・調理した肉料理を提供する。
新店では常設となっている。
サンアントニオ都市圏に本拠を構えるH.E.Bは、
本拠地で5割のシェアを誇る。
そのH.E.Bがオースティン都市圏を制圧し、
ヒューストン都市圏では三つ巴の闘いを展開する。
そしてコロナ禍が明けた2022年、2023年と、
ダラス・フォートワース都市圏への侵入を図る。
コロナは時間を早める。
H.E.Bの経営スピードは、
確かに早まっている。
精肉の牛肉売場は3つの強みを強調する。
⑴WAGYU(和牛)
⑵プライムビーフ
⑶グラスフェッド(放牧牛)
地元テキサス州のチェーンストアだから、
精肉のベンダーとの絆が強い。
そのH.E.Bの強みを明確にした訴求だ。
ウォルマートにもクローガーにも、
真似ができないポジショニングである。
壁面上部にそれが、
メッセージとして告知されている。
「NO STORE SELLS MORE TEXAS BEEF」
私たち以上にテキサスビーフを打っている店はない!
コロナ禍はH.E.Bを変えた。
強みを磨き続ければ、
ローカルチェーンやリージョナルチェーンも、
ウォルマート、クローガーを凌ぐことができる。
それによって強みはさらに磨かれて、
次の新店に活かされる。
移動バスの車中講義でも、
そのことを強調した。
外は真っ暗。
視察時間は延長したが、
成果は実に大きかった。
ここで参加者に、
視察の感想を話してもらう。
㈱関西スーパーの出原健二さん。
「H.E.Bはファミリー層をよくつかんでいる。
エンドやPOPにそれがよく表現されている。
来店客と売場がマッチしている」
最後に10番目の視察店はホテルの近隣。
スプラウツファーマーズマーケット。
オーガニックスーパーマーケットで、
ホールフーズとトレーダー・ジョーを急追する、
三番手として躍進してきた。
フロアレイアウトがユニークだ。
青果部門とバルク売場が、
店の中央をレジに向かって、
縦に貫通している。
精肉やデリカテッセン、ベーカリー、
乳製品、グロサリー、サプリメントなどは、
両サイドに配置されている。
定石を外した変則的な店で栗だが、
大型の八百屋だと考えると合点がいく。
この店も他との違いを追求している。
模倣する者は衰退する。
それがアメリカの闘いだ。
20時半にホテルに到着。
今夜の夕食は各自自由行動。
私たち事務局は、
視察店舗で購入した食材を試食しつつ、
とびきりのワインをいただく。
調理をリードするのは、
ご存知、福島道夫さん。
H.E.Bセントラルマーケットでは、
豚骨付きももスライスを購入。
これが絶品。
トレーダー・ジョーのトルティーヤも旨かった。
ワインはOverture。
これはナパのオーパスワンのワイナリーで、
福島さんが直接購入してきた。
福島さんも今回の参加者で、
サンフランシスコに先乗りし、
ダラスで合流した。
見事な包丁さばきで手際よく切り分けてくれた。
商人舎スペシャルコースは、
参加者に、自分で考えることを求める。
そのための情報を十分に提供する。
そして選りすぐりの店舗を次々に訪れる。
重要な企業の店は、
複数回訪れる。
全員が「アメリカ通」になる。
そのうえで、
自分の目で見て、
自分の耳で聞いて、
自分の頭で考える知識商人を目指す。
収穫は大きかった。
3年ぶりにダラスに来てよかった。
本当にそう思った。
(つづきます)
〈結城義晴〉