日経新聞「私の履歴書」。
今月は倍賞千恵子さん。
先月は黒田東彦さんだった。
前日本銀行総裁。
つまらなかった。
理由はすでにこのブログで書いた。
その反動もあって、
今月はとてもいい。
その倍賞千恵子さんの第14回。
「山田組」
そう、映画「男はつらいよ」の、
山田洋次監督のチームのこと。
「人生の学校でもあった」
山田監督の言葉。
「映画を撮るとは
みんなで心と力を合わせて
一つの大きな山を登るみたいなもの」
これは店も会社も同じ。
雑誌編集部も同じ。
「主役は渥美清さんが扮する寅さん」
「テンポの良い口上に絶妙の間合い。
軽快なアドリブも入る」
「山田監督も台本には必ずしもこだわらず、
現場から生まれた即興のセリフや演技を
とても大切にした」
店も売場も、雑誌も同じ。
台本通りでは面白くない。
「寅さんのアリア――」
倍賞。
「渥美さんが口上を始めると
情景が目の前にパァーと浮かぶ。
周囲が合いの手を入れ、
演技を重ねることで
芝居が波紋のように広がってゆく」
「演者同士で支え合い、
響き合い、張り合う。
真剣勝負のハーモニー。
気は抜けないがお芝居の醍醐味」
スーパーマーケットで言えば、
青果部門、鮮魚部門、精肉部門の生鮮三品。
そして日配部門、グロサリー部門、惣菜部門。
さらにレジ部門。
総合スーパーで言えば、
食品部門、衣料品部門、住関連部門。
ドラッグストアで言えば、
薬品部門、調剤部門、化粧品部門、
日用品部門、食品部門。
支え合い、響き合い、張り合う。
真剣勝負のハーモニー。
撮影の合間、倍賞さんは、
その口上をまねて渥美さんに、
「花咲か爺さん」を話した。
「ところが『ここ掘れワンワン』のくだりで、
プーッと吹き出し、自分の方から大笑い」
すると渥美俊一。
「あのな、さくら。
そんなんじゃ、
人は笑わねぇぞ」
渥美の説教。
「喜劇というのは
本人が真面目な顔でやるからこそ面白い。
真剣であるほど滑稽さが増す。
本人が先に笑ってしまったら
どうしようもない」
すごい、達人。
「細部に命が宿る――」
山田監督の撮影哲学。
団子屋での撮影の場面。
店の前を自転車でエキストラが横切る。
山田監督はNGを出した。
「ちょっと、ちょっと待って。
あなた、今どこから来て、
どこに向かう人なの?」
暇を持て余しているのか、
客を待たせて急いでいるのか、
通夜帰りなのか。
どんな人にも置かれた状況があり、
感情があり、性格がある。
「たとえカメラの焦点が
寅さんやさくらに合っていても、
遠景も手を抜かず丁寧に作ることで
映像のリアルさが深まる」
売れ筋商品に顧客の視点が注がれても、
それ以外のアイテムも手を抜かず、
丁寧につくることで、
店のリアルさが深まる。
“Retail is Detail.”
サム・ウォルトンの言葉。
「小売りの神は細部に宿る」
同じだ。
「役者だけではない。
照明さん、音声さん、大道具さん、小道具さん、
衣装さん、結髪さん、メークさん……。
脚本家、プロデューサー、監督も含めて
皆が協力しないと良い映画は生まれない」
倍賞千恵子。
「そこには主役も、脇役も、裏方も、
違いはないと私は思っている」
山田洋次と渥美清、
そして倍賞千恵子。
さらに山田組のすべての面々。
いいなあ。
そんなチームをつくりたい。
そんなチームで仕事したい。
店も会社も、
雑誌も。
渥美の俳句、
師走にはとくに身に染みる。
赤とんぼじっとしたまま明日どうする
ありがとう、
さくらも。
〈結城義晴〉