立春にしては、寒い。
今日は東京に雪がちらついた。
明日は関東も大雪の予報。
水量は多くはないが、
れっきとした一級河川だ。
いつもの自由が丘の一角。
パリの街のようだ。
カラフルな商品陳列。
そして、今ならこれです。
「北陸のお花で応援フェア」
小さな花屋だが、
やるべきことをやっている。
商売はそうして顧客の信頼を重ねて、
継続していく。
それでいい。
ずいぶん日が長くなった。
立春だもの。
さて、将棋界では、
第49期棋王戦が始まった。
五番勝負のタイトル戦。
8つのタイトルがある。
そのすべてを藤井聡太が持っている。
だから「八冠」と呼ばれる。
21歳。
名人・竜王・王位・王将・王座・棋聖・叡王、
そして棋王。
それぞれのタイトルに、
1年で一度、挑戦者が決まる。
その挑戦者を決めるために、
棋士たちがリーグ戦を戦ったり、
トーナメントを戦ったりする。
それがプロ将棋棋士の仕事だ。
そして最後に挑戦者が決まり、
タイトルホルダーと、
五番勝負や七番勝負をする。
棋王戦は1975年に始まった。
二番目に歴史の浅い棋戦である。
共同通信社がスポンサーとなって、
全国の地方紙に配信する。
今回の第49回は、
伊藤匠(たくみ)七段が挑戦者となった。
このところ伊藤は第36期竜王戦でも、
挑戦者となって藤井と戦った。
しかしそれにも負けて、
藤井には7戦7敗。
この第一局には、
並々ならぬ決意で臨んだ。
振り駒で先手になった藤井棋王は、
角換わり腰掛銀という戦法。
藤井も伊藤も得意とする戦型である。
中盤以降、双方の玉が上部に脱出し、
相手陣地に入る展開になった。
「入玉」である。
互いに相手の玉を捕まえることができない。
そこで午後5時35分、
藤井が129手を指すと、
伊藤七段が「持(じ)将棋」を提案し、
藤井棋王が「はい」と応じた。
つまりは引き分け。
タイトル戦での持将棋は、
2020年の第5期叡王戦第3局以来。
珍しいことだが、
驚いたことに、
伊藤匠七段は事前に想定していた。
対局後、本局で後手番になったら、
「用意していた」と語った。
藤井玉を寄せ切れない場合に、
形勢を損ねてしまうリスクがあった。
「先手玉を寄せる感じではなくなるのですが、
こちらとしては入玉を目指すというのが
予定の方針ではありました」
これに対して将棋界の先輩たちは、
批判的だ。
はじめから引き分けに持ち込むことに、
違和感を持つのだろう。
プロの将棋は先手有利となっている。
統計がそれを示している。
しかも藤井は先手では圧倒的に強い。
先手の勝率は8割9分3厘。
後手の勝率は7割8分6厘。
どちらも驚くほどの戦績だが、
それでも後手が弱い。
だから伊藤は自分の後手番で、
持将棋を目指した。
次は先手番に変わる。
そこで勝負をする。
ここまで考えて、
藤井聡太に臨む。
まだ21歳の若者だ。
そしてこの作戦を導き出すことに、
AIが貢献している。
最後の最後まで最善手を指したらどうなるか。
AIはそこまで教えてくれるわけではない。
けれど次善手として、
「持将棋」を選ばせた。
そう考えることもできる。
藤井聡太はこの対局で、
ずっと有利に戦いを進めていた。
AIは6割くらいの勝率を示していた。
しかし伊藤が「持将棋」を予定に入れていたとは、
藤井も考えていなかっただろう。
だから藤井は次の対戦で、
対策を練ってくるに違いない。
その藤井の対策こそ、
見ごたえがあるものだが、
伊藤匠は一つのミスをした。
「引き分け」を予定に入れていたことを、
ぼろっと漏らしてしまったことだ。
藤井はそれに対する対策を考えてくる。
恐ろしい迫力だ。
塩野七生。
「勝利は自ら勝ち取るものではない。
たいていの場合、
相手から恵んでもらうものだ」
藤井聡太の勝ち方も、
最後は相手の失着による例が多い。
しかし情勢に応じてではあろうが、
持将棋を予定に入れる姿勢に、
将棋の女神は微笑むのだろうか。
〈結城義晴〉