天皇誕生日の祝日は、
戦前の天長節に由来する。
戦後の1948年に祝日法が改正され、
天皇誕生日と制定された。
昭和天皇は1901年4月29日の生まれ。
1921年から26年まで「摂政」となって、
父君の大正天皇の名代を務め、
その26年12月25日に第124代天皇に即位した。
それ以来、1989年1月7日の崩御のときまで、
天皇位に就いていた。
だから天長節を17回、
天皇誕生日を45回、
天皇として迎えた。
昭和は64年まで続いた。
その後、1989年から、
第125代の平成天皇の時代は、
12月23日が天皇誕生日の祝日となった。
2019年が令和元年となり、
2020年から2月23日が天皇誕生日となった。
あらためてお年を聞くと、
来年はもう高齢者だ。
ちょっと驚く。
これからも元気に、
そのお役目を全うしてもらいたいと思う。
イギリスでは1901年から、
国王誕生日の祝日を6月に設定している。
エドワード七世が即位して、
そう決めた。
国王や女王の実際の誕生日には、
まったくこだわらない。
エリザベス女王が6月第2土曜日、
現在のチャールズ3世は第3土曜日を、
国王誕生日としている。
アメリカには大統領の日がある。
2月第3月曜日。
ジョージ・ワシントンは、
1732年2月22日の誕生。
エイブラハム・リンカーンは、
1809年2月12日生まれ。
2人の大統領の誕生日を合わせて祝う。
世界の国々には、
ナショナルデーがある。
「国家の日」。
アメリカは独立記念日の7月4日、
フランスは革命記念日の7月14日。
ドイツは「統一の日」の10月3日。
1990年10月3日に東西ドイツが再統一した日だ。
中国は毛沢東がつくった建国記念日の10月1日。
中国では習近平の誕生日は祝わない。
中国の国家指導者は、
私生活すら明らかにしない。
だから生まれた日も公表されていない。
それでも公然の秘密として、
6月15日と判明している。
ロシアのウラジーミル・プーチンは、
10月7日が誕生日。
1952年10月7日だから、
私より1カ月ほど後に生まれたことになる。
その大統領誕生日も、
祝日になったりはしない。
友好国の首脳から贈り物は届けられる。
だが国の規定によって、
大統領へのプレゼントは、
1万ルーブル(約1万6000円)を超えると、
自動的に国家の資産となる。
クレムリンの中に特別な博物館があって、
そこに保管される。
共産主義のソビエト連邦時代の名残か。
今のプーチンなら、
気に入った贈り物は、
自分のものにしてしまいそうだが。
中国やロシアは現在、
専制主義国家と位置づけられている。
そんな中国・ロシアでも、
専制的な国家元首の誕生日を祝う気配はない。
国家・国民のノーマルな判断力が働いているのか、
それほど絶大なる権力には至ってはいないのか。
イギリスと大英帝国諸国、
そして日本、オランダ。
タイ、ブータン、カンボジア、マレーシアなど。
国王や天皇の誕生日を祝う。
その全盛期の絶大なる権力は、
今の専制主義国家の比ではない。
むしろ現在の中国もロシアも、
危うい権力構造なのかもしれない。
だから元首の誕生日を、
祝日にしようなどと策動したら、
権力そのものがひっくり返る。
権力者たちもそれを知っている。
現在の象徴天皇制は、
日本という国の長い生い立ちを考えると、
妥当な歴史的産物であると思う。
私たちは生まれたときに、
自分の国が決まっている。
そして天皇の誕生日を祝う。
一方、自分の意志で国を選ぶこともできる。
「移民」である。
国連によれば世界の人口の3%が移民で、
97%は生まれた国の国民だという。
私は大学時代にロシア語を学んだが、
ロシアに移民したいとは思わない。
ロシア国籍を持ちたいとは思わない。
中国もしかり。
アメリカも大好きだが、
アメリカ国民になりたいとは思わない。
私は日本国民でいたいと思う。
最後に坂口安吾を紹介しよう。
1946年の「天皇小論」という短文だ。
「文学時標 第九号」
「日本的知性の中から封建的偽瞞をとりさるためには天皇をたゞの天皇家になつて貰ふことがどうしても必要で、歴代の山陵や三種の神器なども科学の当然な検討の対象としてすべて神格をとり去ることが絶対的に必要だ。科学の前に公平な一人間となることが日本の歴史的発展のために必要欠くべからざることなのであり、科学の前に裸となりたゞの人間となつても、尚、日本人の生活に天皇制が必要であつたら、必要に応じた天皇制をつくるがよい。人間天皇は機関として存否を論ぜられるのは当然であるが、単純に政治的にのみ論ぜらるべきではなく、一応科学の前で裸の人間にした上で、更に宗教的な深さに戻つて考察せられることが必要だと思ふ。」
太宰治、織田作之助、檀一雄などとともに、
私は学生時代から安吾が大好きで、
ほとんどを読んだが、
天長節が廃止された年に書かれた。
これは正論だ。
時差ボケでボーッとしながら、
天皇誕生日にそんなことを考えた。
〈結城義晴〉