今年の桜も終わる。
それでも空に映える。
桜前線は北に向かう。
夕暮れが迫ってくる。
今日の日経新聞「社説」
「ヨーカ堂の遅すぎた経営改革を教訓に」
いつも書くけれど、
この新聞の社説で、
小売商業を取り上げてもらうのは、
とてもありがたい。
感謝している。
セブン&アイ・ホールディングスが、
傘下の「スーパーストア事業」に関して、
株式の上場を検討すると発表。
社説はこの問題を取り上げた。
「祖業のヨーカ堂が長く低迷し
分離せざるを得なくなった原因は、
構造改革の遅れにある」
「構造改革」?
ん~、そう簡単に片づけてほしくはない。
社説。
「かつて小売りの優等生とされたヨーカ堂は
2000年代以降、縮小の道をたどった。
時代の変化への対応が遅れた結果だ」
「時代への変化の対応」?
これも簡単に言い切れる問題ではない。
「衣料品や雑貨、食品を扱う総合スーパーは
消費者ニーズからずれていった」
これは「総合スーパー業態」の問題を指摘しているようだ。
「過去の成功体験が
経営改革を遅らせた面もある」
「過去の成功体験」を目の敵にしていたのは、
鈴木敏文前会長である。
社説は「2000年代以降」と言うけれど、
鈴木さんは2015年まで現役会長として、
イトーヨーカ堂も統括していた。
「昨年には衣料品の自主企画をやめ、
今年に入って北海道や東北、信越からの撤退を表明した。
24年2月期まで4期連続の最終赤字だ」
これは最近のイトーヨーカ堂のこと。
「不採算事業を抱えながら抜本的な改革を先送りし、
縮小均衡に陥ったのは多くの日本企業にあてはまる」
いつの間にかセブン&アイと、
日本の小売業全体の話になっている。
「セブン&アイの井阪隆一社長は10日の記者会見で、
上場によって財務的な規律を働かせる考えを示した」
「高収益のコンビニエンスストア事業に依存したままでは、
ヨーカ堂再建のスピードは上がらない」
これもセブン&アイの話だ。
ただしこの件に対してだけ、
社説は褒める。
「妥当な経営判断と言える」
イトーヨーカ堂の再建に際して、
財務的な規律が有効なのだろうか。
「そごう・西武の売却の過程では
従業員との対話不足が目立ち、
ストライキにまで発展した。
今回のスーパー事業の再編について、
必要性と将来像を社員に
丁寧に説明することが欠かせない」
社員に丁寧に説明することは欠かせない。
けれどそのまえに社員からの信頼こそが必須だ。
「上場後は連結対象とすることに
こだわらないとしつつも、
持ち株の一部は保有し続けるという」
――財務的な規律を働かせつつ、
支配は継続する、ということか。
「食品でコンビニとの連携を重視するためだが、
『親子上場』では
親会社と子会社の一般株主の利害が対立しかねない」
「連携効果を説明できなければ、
完全分離を求める声が強まることも想定すべきだ」
今のイトーヨーカ堂の幹部や社員にとって、
「上場」はモチベーションになるだろうか。
私はそうは思わない。
しかもヨークベニマルまで、
一緒くたにして中間持ち株会社の傘下にするらしい。
ヨークベニマルの幹部や社員は、
納得するのだろうか。
そのうえ社説は言う。
「上場の前提となる収益改善は容易ではない」
またイトーヨーカ堂の問題に戻る。
ヨークベニマルは、
着実に収益性を担保している。
そして最後に、
マーケットの悪条件を並べ立てる。
「物価高を背景に、
消費者は売り手や商品を厳しく選別している。
売場の魅力を高めるのが急務であり、
効率化へデジタル化投資も欠かせない」
「消費は節約とこだわりの二極化が進む。
安値競争で消耗戦に陥らないために、
付加価値戦略が欠かせない」
何が言いたいのか。
まったくわからない。
「すべての小売業に共通する課題である」
ん~、残念。
私は小売業の改革には、
現場の意志こそが大事だと考えている。
ずっとそのことを言っている。
トップが現場を信じて、
ともに汗をかく。
そうすれば不思議なことに、
小売業やサービス業は、
少しずつ蘇ってくる。
それがスタートである。
イトーヨーカ堂は、
まだ復活することができる。
ヨークベニマルは、
今も日本有数のスーパーマーケットだ。
こちらの上場ならば、
そう時間はかからない。
総合スーパーも、
スーパーマーケットも、
その違いもわからない人間たちが、
構造改革を唱えても、
財務的な規律を持ち込んでも、
社員や顧客や取引先の信頼が得られる店にはならない。
朝日新聞「折々のことば」
昨日の第3056回。
「同じところ」を
答え合わせ的に探すだけだと
もったいないな
〈柴崎友香〉
「『共感』というのは、
他人と同じ思いになること、
そこに自分の気持ちを探し当てることではなく、
むしろ『わからないからこそわかりたい』と
願うところに生まれるものだ」
「そこに必要なのは、向き合うというより
『横に並んで佇(たたず)む』ような姿勢なのだ」
『新潮』2018年11月号、
小説家・滝口悠生との対談、
「エモーショナルな言語を探して」から。
日経の社説に、
横に並んで佇むことを求めるのは、
無理なのかもしれない。
しかし流通担当の論説委員が書いているはずだ。
横に並んで佇んでほしいものだ。
さらにセブン&アイの経営陣も、
現場の中間管理職や社員と、
「共感」することが先決である。
小売業は共感の仕事である。
〈結城義晴〉