月刊商人舎6月号の原稿〆切が迫る。
だから夜食を食べて、夜中まで執筆。
頑張ります。
さて、
ドナルド・トランプの裁判。
11月の米大統領選で再起を目指す前大統領。
77歳、日本で言えば喜寿。
ニューヨーク市マンハッタンの地方裁判所。
“Guilty, Guilty, Guilty…………”
陪審員の代表を務める男性が、
34回も有罪を告げた。
不倫相手のポルノ女優に、
口止め料を支払って、
それを不正に会計処理した。
12人の陪審員全員が有罪と判断した。
大統領経験者が刑事事件において、
有罪評決を受けるのは史上初めてのことだ。
白いワイシャツに紺のスーツ。
青のネクタイ。
読み上げが始まると表情が硬くなって、
眉間にしわを寄せた。
しかしドナルドは豪語した。
「真の評決は11月5日、国民が下す」
トランプは「バイデン政権による魔女狩り」と言った。
つまりバイデン大統領が司法を操作して、
ドナルドに有罪をもたらした、と。
しかしトランプの言を信じると、
アメリカには三権分立が存在しないことになる。
フランスのシャルル・ド・モンテスキュー。
1748年の『法の精神』で、
三権分立の理論を提唱した。
政治権力は立法、行政、司法の3つに分割される。
それが権分1788年のアメリカ合衆国憲法に、
世界最古の成文憲法として採用された。
立法権、行政権、司法は、
それぞれ別個の機関に委ねられる。
それによって政府の権力はバランスを保ち、
市民的自由が保護される。
アメリカ合衆国憲法は、
この原理を徹底的に実現しようとした。
トランプの頭の中には、
三権分立はないかもしれないが、
世界最古の成文憲法には、
厳然と存在する。
しかし有罪判決を受けた被告が、
大統領選挙に出られるのか。
もし勝ってしまったら、
有罪大統領が誕生してしまうのか。
納得しがたいことが起ころうとしている。
日経新聞夕刊の「プロムナード」
エッセイストの酒井順子さん。
2003年、『負け犬の遠吠え』で、
講談社エッセイ賞受賞。
プロムナードのタイトルは、
「主婦」ってだれ
「女友達とぶらぶらしている時に、
包丁の専門店をのぞいてみた」
「料理が嫌いではない我々。
包丁を眺めていると、
お店の人が我々に問うてきた」
「お二人は、主婦ですか?」
その問いを聞いて酒井さん、
一瞬答えに詰まった。
「私はといえば、
パートナーはいるが
婚姻関係は結んでいない身。
そして友人は離婚後、
一人で子供を育てている」
主婦的労働に日々励みつつも
主婦かと言われると疑問もあって、
ゴニョゴニョ言っていると、
お店の人。
「あっ、今の質問は
仕事として料理をするわけでなく、
おうちで料理をされるんですか、
という意味なんです」
帰り道に考えた。
「主婦とは?」という疑問。
これは小売業にとっても重要だ。
「会社員」とか「医師」といった言葉と比べると、
「主婦」は何やら輪郭がぼんやりしているなぁ。
広辞苑で「主婦」を引けば、
(1)一家の主人の妻」
(2)一家をきりもりしている婦人。女あるじ。
つまりは「専業主婦」。
しかし「専業主婦」という言葉は、
既婚女性は家にいるのが当たり前だった時代は、
存在しなかった。
皆、主婦だったので、
わざわざ「専業」をつける必要がなかった。
外で働く女性が目立つようになって、
「専業主婦」という言葉が登場した
酒井さん。
「そのあたりから、
主婦の多様化が進んでくる」
そう、主婦は多様化している。
妻も働いているが、
夫の扶養家族に入っている場合は、
「パート主婦」
フルタイムで働く女性は、
「会社員」などと職業名で言われがちで、
家では主婦的業務をこなしていても、
「会社員主婦」とは言われない。
誰かが「主に」家事を担うのは、
大変すぎて家庭が回らない今、
主婦の定義も、崩れ気味だ。
家庭内の「誰か」ではなく
「誰も」が家事をする世になってきたのだ。
昭和時代までは
専業主婦家庭の方が多かったのが、
平成時代に割合が逆転した。
その後、専業主婦がいる家庭は、
減り続けている。
「主婦という言葉も、
やがては消えるのだろう」
「包丁店の人は、
平日の昼間にうろついている私達を見て、
主婦だと思ったに違いない」
「しかし今は、男女、有業無業、
既婚独身を問わず料理をする時代。
家で包丁を握るのは、
主婦だけではない」
スーパーマーケットの勃興期、
「主婦の店」というチェーンがあった。
福岡県小倉市の丸和フードセンター。
社長の吉田日出男さんが、
「主婦の店運動」を始めた。
そして全国に主婦の店が次々に誕生した。
ダイエーもそうだった。
バロー、オークワ、ベルク、キョーエイ、
マスダ、セイミヤ、マイヤ、
フレスタ、一番館などなど。
ちらし情報を提供するShufoo!も、
「主婦」のもじりだ。
しかし主婦は多様化した。
そしてもう「主婦」はほんの一握りだ。
だから包丁屋の店員さんのように、
「お家で料理する人」と考えるのがいい。
もっと広げると、
英語の「housekeeping」がぴったりだ。
男女、有業無業、
既婚独身を問わず、
料理をする。
家事をする。
そういった人たちに貢献する。
「主婦」の感覚で商売してはいけない。
まあ、そんな店はないと思うが。
三権分立を無視するのは納得できないが、
こちらは納得できる現象だ。
〈結城義晴〉