紫陽花に似ている。
紫陽花や 昨日の誠 今日の嘘
〈正岡子規〉
1日がかりで7000字の原稿を書いた。
ずっと考えていたことを、
整理できたと思う。
表紙のCoverMessageもできた。
満足な一日だった。
7月3日。
新しい日本銀行券の発行。
1万円札の顔は渋沢栄一。
日本の資本主義の父。
約500にも及ぶ企業を設立した。
5千円札は津田梅子、
6歳で渡米した日本初の女子留学生、
帰国してから女子教育の先駆者となった。
津田塾大学の創始者。
千円札は北里柴三郎、
近代日本医学の父。
破傷風菌の血清療法を開発、
ぺスト菌も発見した。
日本のお札はよくできている。
アメリカのドル札は、
全部サイズが一緒で困る。
朝日新聞「天声人語」
目の見えないレイ・チャールズは、
若い時にそれで騙されそうになった。
1ドル札を渡されて5ドルだと嘘をつかれる。
以来、ギャラなどは全部、
1ドル札でもらうことにした。
あだ名は「ミスター・1ドル札」となった。
日経新聞「春秋」
「改刷は偽造防止が主目的だ」
改刷は2004年以降20年ぶり。
「顔」が変わったのは1984年以来40年ぶり。
紙幣の発行残高は約120兆円。
そのうち、半分の約60兆円がタンス預金。
それが消費に回れば、
どれだけ経済が回るか。
キャッシュレス化が進む中の改刷。
日本のキャッシュレス比率は約4割、
中国や韓国は8~9割超。
日本政府のキャッシュレス比率目標は8割。
新札発行はそれにブレーキをかけるか。
現金決済のインフラの維持コストは年2.8兆円。
これは国のコスト。
一方、民間の経費もかかる。
新紙幣発行でATMや券売機の改修は必須。
コスト高に苦しむ中小飲食店などでは、
対応済みは半分程度にとどまる。
私はいつも福沢諭吉を10枚見当で、
財布に入れている。
一挙に使うことはない。
若いころは3枚くらいだったか。
それから5枚くらいになった。
編集長のころ部下の編集部員に言っていた。
「1000円×年齢は絶えず持っていること」
年を取って10枚入れていると、
減ることがない気がする。
不思議だ。
クレジットカードを使う機会が、
圧倒的に増えたからだろうか。
このままでいくと、
私の福沢さんは渋沢さんに変わることはない。
その福沢と渋沢のエピソード。
毎日新聞「余録」
「官尊民卑の気風最も盛んなる世の中に」
「初志を貫いてついに今日の地位を占め、
天下一人として日本の実業社会に
渋沢栄一あるを知らざるものなし」
福沢諭吉の渋沢評。
5歳年下の渋沢は初対面の際、
「いっぷう変わった人」と感じた。
大隈重信邸で将棋を指した。
福沢。
「商売人にしては割合強い」
渋沢。
「へぼ学者にしては強い」
つかず離れずの関係だった。
福沢の主張。
「実業界と政界を同列に扱うべきだ」
渋沢は大いにうなずいた。
私も同感。
そこで福沢は「官尊民卑」の言葉を広めた。
官が尊ばれ、民が卑しめられている。
渋沢も嘆いた。
「官にある者ならば
いかに不都合な事を働いても
大抵は見過ごされてしまう」
時代は変わった。
「民尊官卑」とまではいかないが、
官になりたがらない若者が増えた。
それでもいまだ官尊民卑はある。
士農工商と同じだ。
古い意識はなかなか消えてはいかない。
コラム。
「主役交代を機に民の力で
円の価値が十分に発揮される時代が
来ないものか」
それしかないと思う。
福沢や渋沢と、
将棋を指してみたかった。
角換わりの現代戦法を使ったら、
二人とも驚くだろう。
執筆原稿に満足して、
そんな大それたことも思った。
〈結城義晴〉